• HOME
  • 工 業
  • 農 林
  • 水 産
  • 食品加工
水産総合研究所   Fisheries Research Institute

 


タコ入門


「タコ入門」は1995年5月~1996年8月にかけて青森県産業技術センター水産総合研究所(当時は青森県水産試験場)発行のウオダスに連載されました。その後の研究で明らかになった箇所、輸入量の数字などは注釈を付けることとし、当時の原文のまま掲載します。
文責 青森県産業技術センター水産総合研究所 野呂恭成2017,5,2更新

No.1【海峡を渡るタコ】 ウオダスNo.707号, 1995,5,22掲載

 津軽海峡を渡るミズダコがいます.津軽海峡沿岸では,1987年から昨年(1994年)まで体重2kg程度のミズダコが合計20,281個体標識放流されています.昨年5月までの再捕個体数は635個体で,再捕率は3.1%でした.放流されたミズダコの一部は日本海や太平洋へ移動していますが,ほとんどの個体が津軽海峡内で再捕されています.また,対岸の北海道渡島半島で再捕される個体も多数見られます.まさに「海峡を渡るタコ」といったところです.魚類や海産ほ乳類のような遊泳力のある動物が遠くに移動するのはよく観察されますが,海底を這って移動するタコが海峡を渡る様子を想像すると妙なおかしさを感じます.また,ミズダコは世界で最も巨大になるタコで,体重が40kg以上になります.「タコ入門」は,これまで水産試験場が行ったタコに関する調査,研究結果から,ミズダコ,マダコの生態をシリーズで一口知識風に紹介したいと思います.

※1987~2007年までの津軽海峡でのミズダコ標識放流数は36,035個体で,1,007個体が再捕され,全体の再捕率は2.8%でした(10)野呂・桜井2012)。

  
       図 ミズダコの標識放流

No.2【1年後に北海道で】再捕 ウオダスNo.708号, 1995,5,26掲載

 標識放流されたミズダコは,放流海域では数日後から再捕され始めますが,再捕までの最長日数記録は1,062日目となっています.青森県から放流され,津軽海峡の対岸,北海道渡島半島沿岸で再捕されたミズダコは,放流後300日前後に再捕されています.つまり,約1年後に津軽海峡の対岸で再捕されたことになります.同様に,北海道沿岸で標識放流されたミズダコも約1年後に青森県沿岸で再捕されています.
津軽海峡の中央部の海底地形は複雑ですが,水深200m以上となっています.通常ミズダコは水深5~80m程度の場所で漁獲されることから,沿岸部から約1年かけてこの深い海峡を横断していることになります.どのような理由で海峡を渡るのでしょうか.

No.3【夏は深所へ?】 ウオダスNo.709号, 1995,6,1掲載

 ミズダコが泳ぐ様子は良く見かけますが,移動は基本的に海底を這うものと思われます.わざわざ水深200mの津軽海峡を横断するのは何故でしょう.それは,ミズダコの深浅移動の習性によるものと思われます.ミズダコは季節によって深浅移動することが知られています.標識放流個体の再捕水深を調べると,秋季から春季にかけては比較的浅い水深帯から水深120m付近まで広く分布していますが,夏季には水深40m以深の深所で多く再捕されています.
ミズダコは冷水性の動物で,水温16℃以下が適水温と言われています.津軽海峡の表面水温は夏季には20℃以上になることから,高水温を避け深所へ移動したミズダコが翌年に対岸で再捕されたものと考えられます.また,冬季から春季にかけては摂餌活動が活発になり,交接もこの時期に行われます.水深の浅い沿岸部は,餌料環境が豊かでパートナーに遭遇する機会が多い,分布密度の高い場所と思われます.

No.4【1年で1~2kg→10kg】 ウオダスNo.711号, 1995,6,12掲載

 標識放流試験からミズダコは非常に成長の良いことがわかってきました.例えば,体重1.6kgで放流したミズダコが343日目に27kgで再捕され,1年で17倍になったことになります.これは非常に成長の良い例で,平均すると体重1~2kgの個体は1年後に体重10kgになっています.しかし,体重2kgで放流しても1年後に4~5kgにしかならない個体も多数見受けられます.ミズダコの成長には非常にばらつきがあります.
魚類や貝類には年齢を知ることができる年齢形質がありますが,タコに関してはまだ見つけられていません.一般に魚類や貝類では鱗や耳石,貝殻等の硬組織に年齢形質が形成されます.一方,タコは体組織のほとんどが柔軟な筋肉で構成されているため,明確な硬組織は口器や平衡石(耳石)等に限られています.しかし,これらはどうも年齢形質にならないようです.ミズダコの寿命はおおよそ3~4年と考えられていますが,現段階では魚類や貝類のように明確にはわからないというのが実情です.

※その後の解析で、ミズダコの成長は個体差が大きく、成長率は成長とともに低下し、雌雄の成長差は認められないことがわかりました。また、体重組成と標識放流から、2~5歳に成熟体重に達する4グループが推定され、極端に高齢な1個体を除く3グループで、雌雄の成熟サイズを考慮した成長様式を推定しました(下図)。寿命は、オスが4年5ヶ月、メスは産卵、保護期間を加え5年と考えられました(10)野呂・桜井2012)。


図 津軽海峡におけるミズダコの年齢と成熟の関係

No.5【冬~春はタコの愛の季節】 ウオダスNo.712号, 1995,6,16掲載

 ミズダコの生殖は他のタコと同様「交接」と呼ばれる方法によって行われます.ミズダコの交接は次のように行われます.まず,オスが体内にある精莢と呼ばれる精子のたくさん詰まったカプセルを取り出します.この際,取り出す腕は,右第3腕と決まっています.何故なら,全部で8本ある腕の内,オスの右第3腕の先端だけは吸盤が無く,さらに精莢をつたわらせる溝があるからです.オスはこの腕で精莢を取り出し,メスの体内に精莢を挿入するのです.そして驚くべきことに,この精莢の長さは80~100cmもあり(マダコでは5-8cm),螺旋状にすっぽりとメスの体内に収まるのです.
1992年~1993年にかけて東通村の尻屋で漁獲されたミズダコの生殖時期について調べた結果,交接は1月から4月に行われていました.これは,メスの体内に精莢や精子があるかどうかで調べました.また,成熟しているミズダコの体重はオスで10kg以上、メスで8.5kg以上でした.冬~春はミズダコの愛の季節なのです.

※その後、津軽海峡全体の性成熟と生殖を調べた結果、オスの未熟個体は周年、半熟個体は3~12月、成熟個体は11~5月に、メスの未熟個体は周年、成熟個体は12~5月にそれぞれ出現していました。また、オスの最小成熟体重は9.8kg、メスの最小成熟体重は8.5㎏で、交接時期は11~4月で,メスの最小交接体重は10.6kgでした(15)野呂・桜井2014)。


図 津軽海峡におけるミズダコの成熟周期

No.6【精莢の数は3~11本】 ウオダスNo.713号, 1995,6,21掲載

 オスは交接の際80~100cmの精莢をメスに挿入しますが,1個体のオスは精莢を何本持っているのでしょうか.尻屋で漁獲されたミズダコを調べた結果では,3~11本の精莢を体内に有していました.オスは1回の交接で2本の精莢をメスに挿入すると思われます.このことから,オスの交接できる回数は比較的少ないと思われます.ちなみにマダコは数百本の精莢を有していますから,ミズダコの精莢の本数はマダコに比べるとかなり少ないと言えます.
一方,メスは1月~5月にかけて次第に成熟が進みます.卵巣重量が増加し,色調が白から黄色へ変化し,肉眼でわかるような卵が形成されます.尻屋で漁獲されたミズダコでは,メス1個体で38,000~94,000個の卵を有していました.ちょっとかわいそうな気もしますが,ミズダコの卵巣は食べると非常においしいと言われています.

※その後、津軽海峡全域で調べた結果、オスの精莢本数は1~12本でした (15)野呂・桜井2014)。

       
ミズダコの精莢


成熟したミズダコの卵巣

No.7【産卵場所はどこ?】ウオダスNo.716号, 1995,7,7掲載

ミズダコは他の頭足類と同様一生に1回成熟し,生殖した後死亡すると考えられています.つまり,1-4月に交接したオスはまもなく死亡し,メスは産卵した後,卵が孵化するまで保育し死亡するのです.メスの方が数ヶ月長生きといえます.ふ化後,ミズダコは数ヶ月浮遊し底生生活に入ります.
津軽海峡沿岸に生息するミズダコの産卵場所はまだわかっていません.成熟したメスがいることや,移動範囲が津軽海峡沿岸に限られていることなどから,津軽海峡内で産卵していることは確かだと思われます.北海道の日本海や太平洋沿岸で産卵礁を設置して調べた結果では,水深30~70mの水深帯で産卵が確認されています.また,最近,北海道羅臼沖の水深13mの海底で天然の産卵が確認されています.ミズダコの産卵は海底の岩棚の下で行われ,さらに,周囲の小石を拾い上げて産卵室をふさぐためなかなか発見が難しいのです.

No.8【天敵はミズダコ?】ウオダスNo.717号, 1995,7,11掲載

 ミズダコが海獣(トドやラッコ等)やオオカミウオ,マダラに捕食されることが報告されています.しかし,ある程度の大きさになったミズダコが他の動物に捕食されることは少ないようです.ところが,尻屋でタコ篭によって漁獲されたミズダコの胃内容物を調べたところ,ミズダコを捕食している個体が多数確認されました.胃内容物にはミズダコの腕の他に一部肝臓片も見られたことから,相手を喰い殺している個体もあることがわかります.
ミズダコは縄張りを形成する習性があることが知られています.タコ篭に2個体以上のミズダコが入った時は縄張り形成のため闘争が起き,ついには相手を殺してしまうと思われます.これは,タコ篭という限られた空間に閉じこめられたため起こることだと考えられますが,自然状態においてもこのような闘争が起こっていると想像されます.しかし,一番の天敵が人間であることは明らかです.


図 津軽海峡におけるミズダコの生活史

No.9【資源管理の展開】 ウオダスNo718号, 1995,7,17掲載

 青森県水産試験場が漁業研究会等の協力を得てミズダコの調査を開始したのは昭和62年です.当初は体重2kg未満の個体の標識放流を中心に行っていました.その結果,標識放流された個体の成長が非常に良いことから資源管理の機運が高まり,平成元年には青森県漁連内にミズダコ資源対策協議会が設置され,2kg未満のミズダコの再放流と6~10月の期間のタコを目的とした漁業の禁止が決定されました.その後,平成2年からは2kg未満の再放流に加えて,6~10月の期間はすべてのミズダコの漁獲を禁止しています.
この青森県全域で行われているミズダコの資源管理は,平成3年度の「漁業白書」の資源管理型漁業の推進の項目に,愛知県,三重県のイカナゴ,兵庫県のカレイ類,ガザミ,石川県のアカガイ,トリガイ,茨城県のヒラメ,カレイ類とともに紹介されています.ミズダコの資源管理は,北海道沿岸の一部で行われているものの比較的珍しく,さらに全県規模で行っているのはおそらく青森県だけと思われます.全国に先駆けて行われたミズダコの資源管理を,より効果的に進めるための調査,研究が続けられています.

注:その後2001年10月以降、資源管理項目の変更が行われた。
①2kg未満小ダコの再放流→3kg未満小ダコの再放流へ引き上げ
②禁漁期間の設定(6-10月) →禁漁期間の設定(7-10月)
11)野呂2013)



図 青森県津軽海峡沿岸におけるタコ類の漁獲量、漁獲金額の推移

No.10【漁獲量と輸入量】 ウオダスNo.719号, 1995,7,21掲載

 日本で年間に漁獲されるタコ類はおおよそ5万トンとなっています.タコの漁獲量が多い地域は,東北,北海道と瀬戸内海沿岸です.平成5年の統計によると,最もタコの漁獲量が多い都道府県は北海道,続いて兵庫,福島,青森,香川となっています.北海道の漁獲量は,全国の約44%,青森県は4.2%を占めています.東北,北海道で漁獲されるタコはミズダコ,瀬戸内海ではマダコが多いようです.
一方,タコ好きの日本人は,海外から非常にたくさんのタコを輸入しています.平成5年には約13万トンのタコが日本に輸入されています.輸入されるタコの大半は北西アフリカ産のマダコと考えられますが,国内生産量の倍以上のタコを輸入していることになります.最近本県で漁獲されるタコの価格が安い原因の一つに,この輸入量の増大があげられています.タコの世界も次第に国際化してきました.

注:2008年の日本全国のタコの漁獲量は4万5千トンで、北海道が46%を占め、次いで兵庫県、福島県、青森県、愛媛県、香川県、宮城県、岩手県、長崎県、山口県の順で、東北・北海道と瀬戸内海に面した都道府県で多く、北海道、東北沿岸はミズダコ、ヤナギダコ、瀬戸内海はマダコが主な漁獲対象種です。我が国のタコ類輸入量は,1993年に13万1,000トンで最高値を示しましたが、2001年以降急減し、2008年には4万5,000トンで国内漁獲量とほぼ同量でした(財務省貿易統計)。

No.11【タコの地方名】 ウオダスNo720号, 1995,7,26掲載

魚の名前が地方によって異なって使われることはよくありますが,タコも例外ではありません.全国共通で使う名前を標準和名といい,各地方で使う名前を地方名と言います.タコではミズダコ,マダコが標準和名として使われています.ミズダコは北方種で大型になる種,マダコは南方種で余り大きくならない種です.瀬戸内海でたくさん漁獲されるのはマダコです.ところが,ミズダコのオスを地方名で「ミズダコ」「シオダコ」,ミズダコのメスを地方名で「マダコ」と呼ぶのでこんがらかってきます.この呼び方は,青森県の津軽海峡,日本海沿岸や北海道沿岸でも使われているようです.また,標準和名のマダコは「イシダコ」「ゴジラダコ」と呼ばれています.県漁連の規格では,体重15kg以上のメスのミズダコを「マダコ」,12kg以上のオスのミズダコを「ミズダコ」としていますから,ますます,混乱を生じます.
「マ××」は,その地方で最も一般的に漁獲される魚種に用いられるようです.マイワシ,マダラ,マナマコなど「マ」で始まる魚種が比較的多いのもこの理由からだと思われます.これらがそのまま標準和名で用いられている場合とマダコ,マイカのように地方名として用いられている場合があります.また,「ミズダコ」「シオダコ」「ゴジラダコ」などはタコの味や食感に由来するものと思われ,そのものの状態をよく表していると考えられます.地方名も大切な情報です.

No.12【佐井のマダコ】 ウオダスNo.721号, 1995,8,1掲載

佐井村でタコの調査が始まってもう1年半以上経過します.当初,ミズダコだけを調べようと思っていたら,佐井村では平成3年にマダコを年間約100トンも漁獲していることを知りました.これは,ミズダコの漁獲量とほぼ同じ量に相当します.さらに,マダコの方がミズダコより単価が幾分高いのです.マダコの分布域は主に南の方と考えていたのでずいぶん驚きました.
佐井村で漁獲されるマダコは,ここ数年は年間数トン前後となっていますが,生かして出荷することにより,高い価格を維持しています.最近では,佐井村だけではなく,津軽海峡沿岸でマダコを「活ダコ」として出荷しているようです.しかし,同じマダコでも,価格は瀬戸内海で漁獲されるマダコに比較すると相当安いようです.兵庫県明石沖で漁獲されるマダコが「明石のタコ」と呼ばれ,おいしいことで有名ですが,「佐井のマダコ」も同じ種類なのです.明石は有名な潮の速い所です.津軽海峡のタコも負けず劣らずの海峡育ちです.是非ブランド化させたいものです.そのためにも安定した漁獲があることが必要です.

次回からは「佐井のマダコ」の調査結果を紹介します.


ミズダコ

マダコ
 

No.13【マダコの性成熟】 ウオダスNo.723号, 1995,8,11掲載

佐井村で調べたマダコの成熟パターンがミズダコと全く異なっていました.体重100g以上のオスは既に精莢を有しており成熟していました.精莢の長さは5-8cm,1個体が有する本数は数百本です.ミズダコの精莢は,長さ80~100cm,3~11本ですから,マダコの精莢はミズダコに比較して短くかつ本数が圧倒的に多いことになります.そして,オスの成熟個体は周年観察されます.ミズダコのオスは12~5月に成熟していましたが,マダコのオスは年中成熟しているのです.
一方,メスは7~9月にかけて卵巣内に卵が形成され,重量が増加し,色調も黄色になります.また,8~9月には,漁獲後に収容しておいた化繊ネットに産卵しているのが確認されました.これまで,マダコは南方種のため,青森県内では産卵しないと考えられていましたから,非常な驚きでした.ミズダコのメスの成熟個体は,1~5月に出現していましたから,ミズダコの産卵は春季と思われます.一方,マダコは夏季に産卵していることになります.「産卵期はミズダコで春,マダコで夏」なのです.

No.14【マダコの寿命と成長】 ウオダスNo724.号, 1995,8,21掲載

マダコは地中海,大西洋,日本周辺と世界中に広く分布しており,その生態はタコ類の中では比較的よく調べられています.これまで調べられた結果では,マダコの寿命は1~2年と言われています.ミズダコの寿命は3~4年と考えられていますからマダコの方が短命です.
マダコの成長はどうでしょう.佐井村漁業研究会が針金と番号札を用いて標識放流を行ったところ,再捕率が非常に悪く,余りデータが集まりませんでした.そこで,標識を装着したマダコを水槽内で飼育したところ,標識を取ってしまう行動が観察されました.マダコは礫中に潜って隠れる習性が強く,この際,この種の標識は邪魔になることも考えられます.忍者マダコは神経質なのです.また,早熟で寿命が短いことが,再捕率が低い原因の一つとも考えられます.マダコの成長を調べるため,適当な標識方法の検討が急がれます.
佐井村で漁獲されているマダコの大きさは体重1kg前後の個体が主体で,最も大きい個体でも3.6kgでした.最近,佐井村では体重0.7kg未満のマダコを再放流することに決めたそうです.ミズダコに続いてマダコも注目を浴びてきました.

No.15【とりあえず終了】 ウオダスNo.727号, 1995,9,6掲載

これまでの連載で,タコが非常におもしろく,興味ある動物であることがいくらかでもおわかりいただけたでしょうか?.「タコ入門」は,青森県内で行ったミズダコとマダコに関する調査結果を中心にタコの生態と研究事例を紹介しました.青森県内ではこの他にヤナギダコ,イイダコ,テナガダコなど合計約10種類のタコが確認されています.タコの生態に関しては総じてあまり多く調べられておらず,不明な点が多々あります.
以前にも紹介しましたが,青森県で行っているミズダコの資源管理は,全国でも初めての事例で,今後,その方法の検討や効果の判定など残された問題は山積みです.また,ミズダコの年齢や産卵,浮遊期に関する生態はほとんど未解明です.幸い青森県内のタコの漁獲量は比較的安定しており,緊急的な施策を講じる必要はないと思われますが,こういう時こそコツコツとデータを集めることが重要だと思われます.今後,タコに関しての情報がありましたらドンドン担当まで電話して下さい.
これまで紹介した標識放流や成熟に関するデータは,漁協や漁業研究会の多大な協力を得て集められたものです.関係者に深く感謝し,とりあえず「タコ入門」を終了します.

番外編 「海峡を渡るタコ」 ―ミズダコ研究の最前線― ウオダスNo794号, 1996,8,16掲載

昨年15回にわたってウオダスに掲載した「タコ入門」ではこれまで行ったミズダコの調査結果を紹介しました。今回は北海道立函館水産試験場と共同で実施しているミズダコ調査の概要を紹介します。
函館水試とは平成6年から青函試験研究交流会の一環として、津軽海峡のミズダコについて共同調査を実施しています。これまでの標識放流の結果から、本州と北海道から放流されたミズダコの一部はそれぞれの対岸に回遊・移動することが知られています。そこで両地域のミズダコの漁獲量変動パターン、標識放流結果を整理し解析を行いました。その結果、青森県・北海道のミズダコ数量変動パターンが類似し年間漁獲量の相関係数が高いこと、海峡内で相互回遊が認められること等から、津軽海峡内のミズダコは一つの集団をなしており同一の系統群と考えられることがわかりました。
津軽海峡沿岸では、青森県・北海道とも漁業者自らが禁漁期間を設けたり小ダコを放流するなど積極的にミズダコの資源管理を実施しています。今後はこれらの解析結果を踏まえて、より効果的な資源管理手法の開発を図っていくことが重要です。

参考文献
1)青森県農林水産部.平成18年青森県海面漁業に関する調査結果書(属地調査年報) 2007;73P.
2)北海道立水産試験場.タコ類の調査・研究.資源管理シリーズ 技術資料 No.1 1995; 74P.
3)佐藤恭成.ミズダコの生態と資源管理.水産の研究 1994; 13(6): 82-89.
4)佐藤恭成.青森県尻屋崎周辺海域におけるミズダコの性成熟.日本水産学会誌 1995;62:355-360.
5)佐藤恭成.青森県津軽海峡沿岸におけるミズダコの成長と移動.平成6年度東北ブロック増養殖研究連絡会議報告書 1996; 49-53.
6)佐藤恭成,依田 孝.津軽海峡域におけるミズダコの漁獲動向と移動回遊について.北海道立水産試験場研究報告 1999; 56: 119-124.
7)佐藤恭成.「海峡を渡るタコ」-青森県におけるミズダコ研究の現状-.日本海区水産試験研究連絡ニュース 1996;No. 377: 4-8.
8)野呂恭成.津軽海峡におけるミズダコ資源管理の現状と課題.東北底魚研究,2007;27,93-98.
9)野呂恭成.津軽海峡におけるミズダコの生態と資源管理.2012;水と漁,11,6.
10)野呂恭成・桜井泰憲.津軽海峡周辺海域におけるミズダコの移動と分布および成長.水産増殖.2012;60(4),429-443.
11)野呂恭成.漁業者が取り組む標識放流と広域資源管理-津軽海峡ミズダコの持続的利用に貢献-.豊かな海,2013;29,45-49.
12)野呂恭成.青森県周辺で採集されるタコ類.平成23年度青森県産業技術センター水産総合研究所事業報告,2013;120-122.
13)野呂恭成.青森県沿岸におけるタコ漁業の漁具・漁法.平成23年度青森県産業技術センター水産総合研究所事業報告,2013;123-128.
14)野呂恭成.青森県におけるタコ類の漁獲量変動.平成23年度青森県産業技術センター水産総合研究所事業報告,2013;129-131.
15)野呂恭成・桜井泰憲.津軽海峡周辺海域におけるミズダコの性成熟と生殖周期.水産増殖.2014;62(3),279-287.
16)野呂恭成. 津軽海峡に分布するマダコの生態. 青森県産業技術センター水産総合研究所研究報告, 2017; 9, 8-26.
17)野呂恭成.腕の一部が短いミズダコの形態観察.平成27年度青森県産業技術センター水産総合研究所事業報告.2017.131-133.