イメージデータ ホタテガイ豆知識

ホタテガイ(scallop)の仲間
 イタヤガイ科(Pectinidae)に属し、世界で300種程が知られていますが、大型で生産量の多い種は南北高緯度冷水域に分布しています。収集家にとっても食用としても人気のある貝類です。

仲間1
ツヅレキンチャクガイ フロリダイタヤガイ いろいろなホタテガイ
の仲間たち
 日本で食用として生産されているホタテガイの仲間には、ホタテガイ(Patinopecten yessoensis)、、イタヤガイ(Pecten albicans)、アズマニシキガイ(Chlamys farreri)、ヒオウギガイ(Chlamys swiftii) の4種類あります。ホタテガイは北方に生息する貝で、最も成長が早く大型になる貝です。北海道、青森県、岩手県、宮城県で日本の生産量の99%以上生産されています。イタヤガイは日本全土に生息していますが、島根県などの一部の地域でしか生産されていません。アズマシニシキガイも日本全土に生息していますが、宮城県などの一部の地域でしか生産されていません。ヒオウギガイは南方に生息する貝で、紀伊、四国、九州で養殖されています。この貝は品種改良で色々な色を持っています。
左上:ホタテガイ、 右上:アズマニシキガイ
左下:イタヤガイ、 右下:ヒオウギガイ
日本産ヒオウギガイには青紫、赤紫、黄色
などの色がある。


ホタテガイの名前
【和名の由来】
 ホタテガイは帆立貝、車渠、海扇などと書かれてきました。
 ホタテガイの名の起こりは、和漢三才会(1716年、寺島良安編)にみられるように、「その殻、うえの一片は扁くして蓋のごとく、蚶(あかがい)、蛤(はまぐり)の輩と同じからず、大なるもの径1〜2尺(30〜60cm)、数百群行し、口を開いて一のの殻は舟のごとく、一の殻は帆のごとくにし、風にのって走る。故に帆立蛤と名づく。」によるものでしょう。
 おそらく、昔はこの貝が一片を帆のように立てて海中を走るものと考えられていたのでしょうが、これは実は誤りです。確かにすばやい運動はしますが、それは貝の中に入っている海水を勢いよく吐き出すこと(閉殻筋=貝柱によって殻を閉じる。)によって、その反作用で跳ぶように動くもので、帆を立てて走る云々は当たりません。
【学名の由来】
Patinopecten yessoensis(JAY)
 1854年、ペリーが黒船で来航したときに函館からアメリカへ持ち帰り、1856年にアメリカ人のJayによって命名されました。ラテン語でpatino は「皿」、pecten は「櫛」、yessoensisは「蝦夷の」、つまり「蝦夷産の櫛のある皿」という意味です。ホタテガイの貝殻の表面にある条肋を櫛の歯になぞらえたものです。
【中国名の由来】
 殻の形が扇を思わせることから、海扇、扇貝といいます。
【英名の由来】
 英語ではscallopといいますが、その語源ははっきりしていません。ただし、これからscale(天秤)、skull(頭蓋骨)という言葉が派生しました。ホタテガイの貝殻を上皿天秤の皿として使ったり、その形状が頭蓋骨に似ていることからです。
【仏名の由来】
 フランス語ではpetoncle、conque de Venusといいます。
 西洋では海から生まれた美しい女神ウェヌス(アフロディテ)の持ち物とされ、一説によると女神はホタテガイそのものから生まれたとすらいわれています。petoncleは、ラテン語のpectenに-culusがついた言葉pectunculusの転化で、女神ウェヌスとかかわりのあるこの貝を愛すべきものと考え、語尾に縮小辞culusをつけたようです。またconqueはギリシァ語のkonkhe〈貝、貝殻〉からきていて、conque de Venusは「ウェヌスの貝」という意味です。


ホタテガイの体

ホタテガイの体構造を知りたい方はここをクイックして下さい。

上の殻が左殻(褐色)
下の殻が右殻(白色)


ホタテガイの解剖学(scallop anatomy)

 ホタテガイ(Patinopecten yessoensis)の解剖図と各器官の組織像(scallop anatomy)を一気に公開します。一般の人にはかなり難しいです。専門家用ですが、興味のある人は一度ご覧ください。

ホタテガイの生態
 天然貝の生息場所は水深20〜30mの海域で、アサリ、ハマグリ等の生息場よりも粒の大きい砂泥域〜砂れき場で分散して生活しています。ホタテガイは本来は孤独を好む貝なのです。

 生息水温は5〜22℃で、夏季に水温が20℃を超える日が長く続くとへい死してしまいます。北海道や青森県が主産地であることからもわかるように、ホタテガイは冷水性の貝なのです。
好冷性

ホタテガイは冷たい水が好き

 日本産のホタテガイは雌雄異体で、陸奥湾では春(2〜4月)に産卵期を迎えます。前年の12月頃から水温が下がるにつれて生殖腺が発達し、雄はクリーム色、雌は赤ピンク色となり、水温上昇の刺激により放卵、放精し、海中で受精します。
 その後1週間程で海中を浮遊する幼生となり、約40日間後に殻長300ミクロン前後で採苗器・ロープや海藻類に付着します。(4月中旬〜5月下旬)
受精から付着までの電子顕微鏡写真
採苗器

採苗器に付着した稚貝

 付着後、稚貝は採苗器の中で40〜60日経過後、殻長約8〜10oに成長すると付着力が弱まって自然に落下します。もし自然環境で付着していたら海底に落下することになりますが、このとき海底にヒトデが多かったり、貧酸素等の悪い環境であれば稚貝は死の危険に晒されることになります。
ヒトデ天敵

ヒトデはホタテガイの天敵
 そこで7〜8月までに採苗器から稚貝を採取し、これをネットに適正個数収容し、一定の大きさまで育てること(中間育成)が増養殖技術のポイントとなっています。

 ホタテガイの主な餌は植物プランクトン等ですが、同じ餌を食べるムラサキイガイ、フジツボ類やホヤの仲間が貝殻等に沢山付着してしまうとホタテガイの成長に悪影響を及ぼしますが、順調に成長すれば養殖貝は2年、地まき貝は3年で成貝になります。

ホタテガイの産地及び増養殖

 日本産ホタテガイ(Patinopecten yessoensis)は寒流系の二枚貝で、太平洋側では東京湾以北に、日本海側では能登半島以北に分布しています。産業的にはホタテガイ養殖発祥の地である青森県陸奥湾、北海道噴火湾、サロマ湖、オホーツク海沿岸が中心で、近年養殖技術の進歩により、岩手県や宮城県にも産地が広がっています。

 【採苗】
 付着稚貝は海底に落ちた後、場所によっては大量に死滅することが度々あります。そこでこの時期の生き残りを高め、種苗の安定確保ができるよう採苗器に工夫が重ねられ、昭和40年頃に採苗器をタマネギ袋で包む画期的な方法が開発されました。こうすることによって採苗器から離れた稚貝がタマネギ袋から外には出ずに、害敵から襲われることもなくなりました。最近では古い漁網等をタマネギ袋の中に入れ、これを海中に垂下して稚貝を採取しています。
ホタテガイの付着稚貝
(貝殻から1本の足を出していて歩いています)
タマネギ袋でできた採苗器

 【中間育成】
 7〜8月に採取した稚貝は篭(パールネット)に入れ、20〜25o程度となる10月頃に再度新しい篭に適正個体数に調整して入れ替え、飼育を行い、養殖用、地まき用等の用途別種苗として利用します。

 【地まき放流(増殖)】
 中間育成を経た稚貝は海底に放流されますが、放流時期はその年の11月〜12月(殻長30o以上)と翌年3月(殻長50o以上)放流の2つの方法があります。
 放流する前にはヒトデ等の外敵を駆除、ゴミ等を除去した漁場に均等に適正数量(6枚/u)を放流し、天然で約2年育成後に潜水又は桁網という漁法で漁獲します。

 【養殖】
 本来、ホタテガイは海底で育ちますが、中間育成後引き続き海中に設置した延縄式施設に垂下して養殖することが盛んに行われています。
 成貝になるまでには中に棚の付いた丸篭に入れ替えて更に1年〜1年半程の養殖期間がかかります。この他貝の耳殻に穴をあけ、テグスや返しのついたピン等でロープに直接取り付けて吊す方法(耳吊り養殖)もあります。
 稚貝採取後翌年の7月前に出荷する貝を半成貝、7月〜12月に出荷する貝を新貝と称していますが、最近では小さな貝は値段が安いため、生産者は高品質な大型貝作りを目指しています。

 【付着物(雑物)
 ホタテガイの養殖中には、垂下養殖施設(篭、ロープ、浮玉)やホタテガイの殻には多くの付着生物が付着し、その種も多岐にわたっています。垂下養殖管理上問題になる主な生物は、甲殻類二枚貝多毛類ホヤ類ヒドロ虫類イソギンチャクコケムシ類があります。

中間育成に使われるパールネット

成貝用に使う丸篭

ホタテガイの養殖施設

耳吊り養殖

【病気】
 日本ではウイルス、細菌、真菌などの伝染性の病気による大量へい死の事例は報告ありませんが、次のような病気の報告があります。

 穿孔動物
 ホタテガイの貝殻に穿孔する種として環形動物のスピオ科に属するポリドラがあります。ホタテガイに穿孔するポリドラにはPolydora brevipalpa(マダラスピオ)P. websteriP. curiosaDipolydora concharumD. alborectalisD. bidentataが確認されています。ただし、陸奥湾においてはマダラスピオ1種だけです。

寄生生物
 日本で報告されているホタテガイに寄生する寄生虫は1種だけです。浮遊するプランクトンのカイアシ類(Copepod)1種であるホタテエラカザリ(Pectenophilus ornatus)が鰓の表面に寄生することがあります。

カナダでは本邦産ホタテガイでパーキンサス(Perkinsus qugwadi)などの寄生性原生動物に感染して、大量へい死することが報告されていますが、日本ではまだこの病気の発症例は確認されていません。今のところこれらに対する対策は見出されていません。

 その他
 さらに、ホタテガイでもっと問題になっているのは、貝殻縁辺部の欠刻及び貝殻内部への黄褐色物質が付着し、著しく成長が停滞し、時には大量へい死につながることがあります。通称、異常貝と呼んでいます。これは、高密度飼育や養殖施設の振動により貝同士または養殖篭に衝突することにより外套膜が損傷することによって起こることがわかっています。


ホタテガイの生産量


【日本の生産量】

 平成19年度の生産量は、青森県では103,100t、全国では505,500tでした。

【世界の生産量】

 世界のホタテガイの生産量は(平成18年)2,154,416tとなっています。そのうち中国が1,166,695tと最も多く、日本は484,022tで世界第2位となっています。次いでアメリカ(223,302t)、アルゼンチン(80,045t)となっています。

ホタテガイの栄養

 ホタテガイは甘みと旨味に富み、誰にも好まれる「貝の王様」です。この美味しい貝の味に寄与している成分は主にアミノ酸のグルタミン酸、グリシン、アラニン、アルギニンと核酸関連物質のアデノシン1リン酸であることが分かっています。

 ホタテガイの貝柱には春から夏にかけてグリコーゲンが大量に蓄積され、更に旨味を増します。また、ホタテガイには目や脳の発達を助け、コレステロールを減らして血圧を下げる働きをするタウリンも豊富に含まれています。

 更に、近年、ホタテガイには制ガン作用のある糖タンパク質が含まれていることが明らかになり、この物質は生体の免疫細胞を活性化させる働きを持つとされています。従来の制ガン剤のように直接ガン細胞を攻撃するわけではないため、他のリンパ細胞や骨髄細胞等大切な細胞まで破壊する危険を伴うことなく生体自身の免疫力を高めることによってガン細胞の増殖を抑制できる可能性を示しており、今後の研究によって制ガン剤としての実用化が期待されています。

Hota改
いろいろな色と模様のホタテガイの稚貝
不思議なことに成貝になると皆似たような色・模様になっていきます。
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