青森県水産試験場研究報告 2,31−52 (2002)


                                                              

        

青森県太平洋側沿岸定線100m深水温及び
定地水温の変動特性について



佐藤 晋一



Change of temperature property in the Pacific offshore of Aomori
Prefecture, Japan



                    Shinichi Sato



 本県太平洋沖合海域は津軽海峡から津軽暖流が張り出し,北海道襟裳岬からは親潮が南下し,また,南方からは黒潮起源の暖水が北上してくることもあり水塊配置が複雑に変化する海域である.
 水温の季節変動は海面での熱交換のみによるのではなく,津軽暖流,親潮,黒潮系暖水等の水塊配置の変化によっても引き起こされる.したがって,これらによって引き起こされる水温の季節変動パターンやその要因を明らかにし,また,経年変動パターンを明らかにすることを目的として解析を行った.また,100m深水温水平分布図や水温・塩分鉛直断面図を用いた事例解析,東北海区全体の100m深水温偏差水平分布を用いたコンポジット解析及びスペクトル解析を用いた類似年の抽出と主成分を用いた水温予測について検討を行ったので,その結果を報告する.
 なお,本報告は平成9年度から12年度の漁海況分析検討会議において,東北区水産研究所の指導で東北ブロック各県が解析を行ったもののうち,本県分についてとりまとめたものである.



                           要  約


 
本県太平洋沖合海域は津軽暖流や親潮,黒潮起源の暖水の張り出しや暖水塊が北上する水塊配置が複雑に変化する海域である.これらの水塊配置の変化によっても引き起こされる水温の季節変動パターンやその要因を明らかにし,経年変動パターンを明らかにすることを目的として解析を行った.
 季節変動のクラスター分析では,津軽暖流,黒潮の影響の及ぶ範囲,大陸棚の影響により海水の流動様式が異なると考えられる海域など,本県太平洋沖合海域を4つに区分することができた.
 季節変動の主成分分析の結果から,津軽暖流域の特徴を示す全体変動や親潮域又はその沖側の海域の特徴を示す主成分がみいだされた.
 経年変動の主成分分析の結果から,全体変動は親潮による変動の影響が最も大きく,第2主成分は津軽暖流の影響が大きく,第3主成分は沿岸部の津軽暖流と沖合の暖水の影響が大きいことがうかがわれた.
 スペクトル解析の結果では,津軽暖流の予測の可能性が最も大きいことがうかがわれ,親潮についてもその予測を検討することが有効であると思われた.
 クラスター解析を用いた類似年の抽出による次の月の予測は的中率の高いものではなかった.また,主成分を用いた水温予測では,春季や冬季の予測誤差は比較的小さかったが,夏場については水温変動が大きく,予測を行うのはむずかしいと思われた.