青森県水産試験場研究報告 2,17−21 (2002)


                                                              

        

津軽海峡内におけるマダラ稚魚の分布と移動



小田切譲二・高坂祐樹1)・須川人志・山田嘉暢2



Distribution and movement of pacific cod larvae Gadus macrocephalus

in Tsugaru Strait



    Joji Odagiri, Yuki Kosaka, Hitoshi Sugawa1, Yoshinobu Yamada2



  1 むつ水産事務所 035-0073 むつ市中央1-1-8

  2 青森県水産増殖センター 039-3381平内町大字茂浦字月泊10




 マダラは冬の鍋物用として人気があるだけでなく,その精巣や卵巣は珍味として,青森県民に広く愛でられるている.とりわけ脇野沢地区の定置網で獲られた新鮮なマダラは,その姿と味は高い評価を得ている.
脇野沢村での漁獲が千dを超えた1980年代中頃から1990年代初めにかけては,魚市場も村もまだら漁でおおいに賑わったものであった.しかし1984〜86年をピークに脇野沢村での漁獲は減少の一途をたどり,最近では百dに満たない状況になった.そこで脇野沢村を始めとする陸奥湾内の漁業者団体では,産卵親魚保護のため3月期の操業を自粛するにいたった.
  脇野沢村で獲られるマダラについては津軽海峡や陸奥湾内を回遊する経路やマダラの産卵場(川村ほか1950),年齢と成長(桜井・福田1984),標識放流試験(福田1986,早川1992,青増セ1995),冬季気温と漁獲量との関連(涌坪1997),マダラ漁期の遅れと海象等(小田切1997),これまで数多くの報告がなされている.最近では陸奥湾内の環境条件,餌料プランクトンの分布量や海洋状況,これらとマダラ稚仔の生残りの関係等(高津1998,2001),興味深い重要な事実が明らかにされつつある.本県日本海系マダラについても,資源と生態や標識放流試験等の報告がある(中田ほか1993).
  陸奥湾の漁獲が急激に減少した原因や,資源回復手段として何か残されていないのか.これらを調査の一環として,筆者らは,津軽海峡内を通過するマダラ稚魚の分布と移動について調査する機会を得たので、その結果を報告する.




                          要  約


・1997年から2001年の5〜9月に津軽海峡内でトロール調査を行い,マダラ稚魚の移動分布と回遊経路につい て検討した.
・北上期のマダラ稚魚の全長は6p台で,津軽海峡を通過する主な時期は6月中下旬であること.これら稚魚が津軽海峡に来遊する盛期は,陸奥湾の底層水温が12℃以上に上昇することによって,水温の低い水深帯の湾外へ稚魚が移動を促されるために生じていると考えられた.
・稚魚の成長が良かった2001年には,6月上旬に来遊盛期が出現したことから,北上期の体サイズ6p台に早く達した稚魚ほど早く湾外へ移動すると考えられた.
・佐井地区と津軽海峡東口の大畑地区との稚魚の分布数や体サイズから,大畑地区は稚魚の主たる北上コースではないと考えられた.稚魚が北上するコースは,津軽海峡内では青森県の大陸棚上に,大間崎を経た後は北海道の大陸棚にあると推測された.