青森県水産試験場研究報告 3,9−13 (2003)


陸奥湾産卵群マダラの津軽海峡内における回遊について


小田切譲二・高橋進吾・高坂祐樹



Spawning migration of the pacific cod Gadus macrocephalus

in Tsugaru Strait,coming home to the Mutsu Bay



Joji Odagiri,Shingo Takahashi,Yuuki Kosaka



 産卵のため陸奥湾に回帰してくる,いわゆる陸奥湾産卵群マダラは,津軽海峡の佐井村と陸奥湾の脇野沢村で主に漁獲されることで知られていた.1980年代末に両地区ではそれぞれ六百トン,千二百トン前後の漁獲があり,特に漁獲が多かった脇野沢村では地域を代表する魚として同村の漁業を支えていた.しかし,今では百トンに満たない水揚げにまで減少するに至った.なぜ陸奥湾へ回帰する親魚の数が少なくなったのか.このことを検討するために,陸奥湾へ回帰する海況の変化の指標として津軽暖流の流量の推移に注目し,マダラの漁獲量との関連について検討した.さらに津軽海峡東口で,沖合底曵網船がマダラを特異的に漁獲していた漁区(沖合底曵網漁業7773漁区)のあることが明らかになった.この漁区の海底地形やマダラ漁獲量の推移,試験船開運丸のオッタ−トロール試験結果を比較検討したところ,陸奥湾産卵群マダラの津軽海峡内における回遊経路の一端が明らかになったのでここに報告する.
 

                           要  約



・沖合底曵網漁区7773 と陸奥湾脇野沢村,両海域におけるマダラ漁獲量の推移は,ほぼ一致していた.

・津軽海峡東口の低温・低塩分水の親潮系水の影響が強い地点でマダラ親魚は採捕されたが,津軽暖流系水では採捕されなかった.

・マダラが北海道沖から陸奥湾へ産卵回遊する経路は,7773漁区に含まれている.

・北海道恵山岬と青森県尻屋崎との中間からやや青森寄りとなる,北海道側の大陸棚斜面水深250mから300mが,マダラの回遊経路と推定された.