青森県水産試験場研究報告 3,15−27 (2003)


                                                              

        

青森県尻屋崎東方における津軽暖流の流勢指標について



佐藤 晋一



Current index of Tugaru-Warm Current at east of Shiriya-Zaki,

Aomori Prefecture, Japan



                    Shinichi Sato



 本県日本海沖合を北上する対馬暖流はその多くが津軽海峡を通過し,太平洋側に流出した後尻屋崎沖を南下することが知られている.
 津軽暖流の勢力は北緯41度26分の尻屋線における各層最高水温,100m深指標水温・塩分による張り出し位置,指標水温の最深度の平年比較により評価している.ここでは,観測資料の整理を行い,流勢指標等について若干の考察を行ったので報告する.


                          要  約


 尻屋崎東方における津軽暖流の張り出し位置は親潮との境界として,年間を通して100m深5℃の東経位置でみているが,尻屋崎東方の100m深に現れた水温値の頻度を月ごとに集計し,各月のモードから津軽暖流の月ごとの指標水温を検討した.
 津軽暖流の張り出しモードの判定については,尻屋崎の張り出し位置のみで判断したが,この方法でも暖流の張り出しを良く表しているものと考えられた.
 津軽暖流の南下流量の全平均は2.03Svとなった.しかし,津軽暖流の南下流量については,親潮や暖水塊の影響を受けていることが考えられた.津軽暖流の南下流量の季節変動は9月に最大を示し,最小は1〜3月にあるものと思われた.
 季節変動の主成分分析の結果から,この海域では津軽暖流による変動が最も大きいと考えられた.沿岸・沖合側の中層を中心とする変動もみいだされ,沿岸側の中層はオホーツク海水の影響を,沖合側の中層は親潮第1分枝の変動を示しているものと考えられた.
 塩分の第1主成分についても,津軽暖流の変動を示すと考えられた.
 経年変動の主成分分析結果では,全体変動は親潮の変動を示していると思われるものの,この領域に暖水塊が存在するかどうかで大きな変動を示すと考えられた.第2主成分は沿岸・中層のオホーツク海水の影響を示しているものと考えられた.第3主成分は津軽暖流の沿岸モードと渦モードの2つのモードの強弱を示すものと考えられた.
 断面積算水温の季節変動は10月に最大を示し,最小は1〜3月にあるものと思われた.
 日本海の舮作線でとらえた対馬暖流の指標と太平洋の尻屋崎東方における津軽暖流の指標の相関のうち,比較的相関係数の大きかった組み合わせから,青森県周辺の水温変動が同時に起きているということがうかがわれた.
 対馬暖流の指標と1ヶ月後の津軽暖流の指標の変化傾向に比較的高い相関が見られるものもあり,津軽暖流の南下流量や100m層最高水温の変化傾向の予測の可能性があると思われた.