青森県水産試験場 研究報告 1 , 17-26 ( 2001 )


                                                              

        

対馬暖流の流勢評価について



佐藤 晋一



Estimate of Condition Tsushima-Warm Current



                    Shinichi Sato



 当場では現在,日本海において7月と1月を除く各月ごとに年間10回にわたる海洋観測を行っている.その観測結果については,表に整理してファックスにより関係機関に送付するとともに,最高水温や暖流の範囲等に関する流勢指標を算出して漁海況速報「ウオダス」に掲載し,漁業関係者への周知を図っている.
 対馬暖流の0,50,100m層の最高水温,暖流の流幅,水塊深度及び北上流量の流勢指標値については,それぞれ平年値との比較を行って評価しているが,それらをどのように総合して暖流としての評価を行うかについては,担当者の主観にたよっているのが現状である.ここでは,それらの指標を総合的に評価するものとして,新たに「断面積算水温」を算出し,その妥当性についての検討を行った.



                           要  約


 
対馬暖流の流勢については,0,50,100m層の最高水温,暖流の流幅,水塊深度及び北上流量の指標により評価を行っているが,それらの総合評価とどう行うかについて,断面積算水温を算出し,その妥当性について検討を行った.
 上記6種の流勢指標を統計的に総合するため,主成分分析を行って,全体変動を表すと思われる第1主成分に着目したが,その寄与率は高くなく,有効な方法でないと思われた.
 そこで,全体の流勢を表す指標として舮作線における鉛直断面のうち一定の断面を考え,この断面における水温の積算値によるアプローチを考えた.この断面積算水温の月ごとのデータを過去の「漁海況予報事業結果報告書」や「日本海海洋調査技術連絡会」の議事録の海況の記載と比較してみたところ,1984年の異常低水温や86年春季の暖流の弱勢傾向,あるいは78年9月や10月の暖流の強勢傾向等その変動が読み取れたため,これを暖流の勢力を代表する指標として使うことは可能と思われた.
 現行の6種の流勢指標のうち,断面積算水温に対して寄与率が最も高いのは暖流流幅で,相関も高いという結果となった.しかし,流幅については現行の5℃の指標水温ではとらえられない事例が1割以上もあったため,流幅の指標水温を月ごとに決めて舮作崎西方の対馬暖流流幅を計算し直し,その偏差値と断面積算水温の偏差値の相関をとったところ,その相関係数は0.89となり,やはり高いものとなった.断面積算水温と暖流流幅は相関が高いものと考えられた.