青森県水産試験場 研究報告 1 , 1-8 （ 2001 ）
ヤリイカの卵発生に及ぼす低水温の影響
伊藤 欣吾 ・ 桜井 泰憲1)
1) 北海道大学水産学部 （Faculty of Fisheries , Hokkaido University , Hakodate , Hokkaido 〒041-8611, Japan)
Effect of Low Temperature on Embryonic Development
of Loligo bleekeri (Cephalopoda : Loliginidae)
Kingo Ito and Yasunori Sakurai1)
Abstract : In order to elucidate the effect of low temperature on embryonic development
of Loligo bleekeri,
we carried out experiments in captivity. We examined the effect
of consatnt temperatures ( 5 , 7 , 9 , 11℃ )
and thermal shocks ( from 9℃ temporally drops to 5℃ ) on embryonic
development. Thermal shocks were
given in three different stages of embryos for 15 or 30 days each. Hatching
rate of developing embryos fell
both when they were exposed to and kept temperature at 7℃ , and when they
were temporally exposed to
temperature at 5℃. When temperature fell and kept at 5℃ , development
stopped and all the embryos died.
The longer was the period of temporally exposing to temperature
at 5℃, the lower the hatching rete was ,
especially when embryos were exposed during the medium term developing. We think as results that sea-
water temperature in spawning grounds affects the shock fluctuations
of L.bleekeri.
ヤリイカ Loligo bleekeri （Keferstein,1866） は単年生であり，朝鮮半島から日本近海にかけての沿岸域に広く分布する（奥谷ほか，1973）．本種は，沿岸漁業の重要な対象種として日本各地で漁獲されている．佐藤(1990)は，標識放流試験によって，能登半島以北の対馬暖流の影響が及ぶ範囲に生息するヤリイカを一つの系統群と推定している．北日本におけるヤリイカの産卵については，1〜6月に水深5mから60mの岩礁域や人工礁ブロックで確認されている（赤羽ほか，1981）．天然海域における産卵時の水温について，10.3℃から8.1℃に低下する20日間の間に産卵した1例がある（山中，2000）．ヤリイカの卵発生は，Baeg
et al.（1992）により28段階に定義されている．卵発生と水温との関係については数多くの研究が行われ，約11〜17℃の範囲で正常発生し，水温が低いほどふ化までに要する時間は長くなるが，6℃以下ではふ化しないことが報告されている（Baeg，1993）．また,桜井ほか（1999）は,卵発生の途中に水温が7〜11℃から5〜6℃に低下し,そのまま低水温が続く場合には,発生の停止またはふ化幼生が生残しないことを明らかにした．さらに，一時的に卵が低水温にさらされた場合，より高水温から5〜6℃の温度ショックを受けるほど奇形・死亡率が増加してふ化率が低下することを報告している．
ヤリイカの産卵場が存在する本州北部と北海道南部の沿岸域は，冬季の水温が6℃以下に低下することがあり，発生に不適な低水温の影響を受けることになる．そこで本研究では，ヤリイカの卵のうを5℃から11℃までの水温の条件で飼育し，卵発生に適した水温を明らかにした．次に，ヤリイカの卵発生に不適とされている5℃の水温（桜井ほか，1999）が卵発生に及ぼす影響について，5℃水温の期間の長短および5℃水温を受ける発生段階の面から検討した．