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陸奥湾海域

 平舘から脇野沢に至る海域であり、この海域の特徴としては湾口部が1つで狭く、湾央部は平坦な泥底で平均水深が38mと浅い海域であることである。湾口部が最も深く水深約70mに達する。
 このような地形的特徴から、日本海から出入りする潮の流れは潮汐流であり、間欠的に出入りを繰り返す。その際、通常は流入は平舘海峡西口から、流出は湾内固有水が海峡東口からとなっている。
 
 湾内に入った潮の流れは沿岸沿いに反時計回りとなっている。この潮の流れが魚類の分布に大きな影響を与えている。すなわち、水温は西湾で高く、東湾で低い。この傾向は冬期間で著しい。湾奥部では外海水との交換が悪いため、低塩分・低水温の湾内固有水となり、東湾奥部の川内沖合で最もその傾向が強い。表層水温の最高は平均値で23℃、最低で3-4℃であり、最低水温が本県沿岸で最も低くなっている。このことが本海域を特徴づける最も重要な点である。
 
 すなわち、日本海における最低水温が7-8℃に対して3-4℃という水温は温帯性魚類の生存そのものを保障しない低水温であり、夏場は多くの温帯性魚類の成魚・幼稚魚を含む多彩な構成となるが、冬場には一転して冷水性の地味な魚種のみとなる。陸奥湾の魚類については詳しい記録があるので少していねいに見てみる(塩垣、1985)。

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 1)温帯ないし熱帯性偶来魚
 日本海で産卵されたものが仔稚魚・幼魚となって陸奥湾に入り、そこで育つ温帯性魚類は多い。代表的なものを挙げれば、コノシロ、サバヒー、ダツ、トビウオ類、アカカマス、シロギス、ブリ、マアジ、シイラ、マツダイ、ヒメジ、メジナ、チダイ、マダイ、クロダイ、イシダイ、ウミタナゴ、イトベラ、キュウセン、スズメダイ、バショウカジキ、マサバ、タチウオ、ナベカ、ニジギンポ、スイ、コチ、ヤナギムシガレイ、アミモンガラ、カワハギ、ハリセンボンなど。
 
 熱帯性偶来魚としてサバヒーがある。本種は高知県以南、インド洋〜紅海に産するもので、平成12年10月に茂浦で潜水観察された全長約25cmの1個体が確認された。極めて稀な例である。平内町茂浦にある県水産増殖センターの前浜に設置した実験筏には7-8月頃、南西風が 吹き続いた後、多くの稚魚が流れ藻と共に吹き寄せられ、金色に輝くブリ、シイラ、トビウオ類の稚魚が見つかることがある。

 また、秋になると、紫地に尾柄部の白い円形斑点を持つスズメダイの稚魚が岸壁等に群れているのが発見される。スズメダイの成魚は小泊の沖合に大群で生息していることはあまり知られていない。そこで繁殖しているものと考えられる。

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2)温帯性常住魚
 温帯性魚類で寒冷な陸奥湾の環境に適応し、そこで周年生息し、繁殖しているものがある。これらが、陸奥湾の環境を良く表している。

 キタノウミヘビ、ヨウジウオ、オクヨウジ、タツノオトシゴ、オキタナゴ、スジハゼ、ヒメハゼ、アカオビシマハゼ、アゴハゼ、ドロメ、ニクハゼ、マハゼ、アシシロハゼ、アカハゼ、コモチジャコ、キヌバリ、リュウグウハゼ、セジロハゼ、アワユキセジロハゼ、ミミズハゼ、オオミミズハゼ、ナガミミズハゼ、シロウオ、イソギンポ、メバル、ムラソイ、オニオコゼ、クジメ、アイナメ、アナハゼ、アサヒアナハゼ、ネズミゴチ、セトヌメリ、ハタタテヌメリ、ムシガレイ、メイタガレイ、イシガレイ、アミメハギ、クサフグ、ヒガンフグなど。ハゼ科魚類が多いのが特徴的である。


写真 リュウグウハゼ

平内町茂浦産. 陸奥湾ではごく浅い転石帯に多く見られる.優雅なピンクの体色は名前にふさわしい.





 オキタナゴは陸奥湾では初夏の訪れと共に沿岸浅所に群れでやって来るもので、日がな1日、朝から晩まで餌となる小さいコペポーダ類を一匹ずつついばんでいる姿はまさに平和の使者といった趣がある。冬場は浅い所から姿を消し、水深20m以深の深場の流れの殆どない底層に密群をなして長い冬をじっと耐えている。そして、15cm前後の2歳魚では7月に胎内で5cm前後に成長した胎児を20尾ほ ど産出し、一気に賑やかな海となる。そして、晩秋には10cm程に成長した当歳魚は交尾を済ませ翌夏の出産の準備を終えるのである。

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3)温帯性産卵回遊魚
 産卵期を中心とした時期に湾内に姿を見せる魚類で、それ以外の時期は湾外で過ごすものである。

 キアンコウ、サヨリ、トビウオ類、マダイ、チダイ、クロダイ、ヒラメ、ゴマフグ、マフグなど。

 キアンコウは5月頃湾外から産卵のため入ってくるが、6月頃海の表層に漂う卵塊を見ることがある。卵はゼラチン質の膜状に広がった透明な帯の中に包まれており、ちょうどカエルの卵塊を帯状に広げたようなもので変わった産卵習性がある。
 これまで、温帯性魚類について述べてきたが、逆に冷水性魚類についてみると次のようになる。  

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4)冷水性偶来魚
 ネズミザメ、ダウリアチョウザメ、コマイ、オオカミウオ、サラサガジ、ホッケ、トクビレ、ソウハチなど。
 
 コマイはタラ科の小型魚類であるが、北海道では野付半島周辺海域が産卵場となっており、結氷した陸岸近くの氷点下に近い低水温下で産卵する。本県では珍しいものであるが、1例では田名部川河口より約4Km上流のサケの簗で獲れた記録がある(1986年12月19日、全長375mm、成熟雄)。これなどは迷い込みの1例であろう。

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 5)冷水性常住魚
 ワカサギ、チカ、クダヤガラ、シワイカナゴ、ムシャギンポ、ムツムシャギンポ、ムシャギンポ属の1種、フサギンポ、アキギンポ、ハナジロガジ、オキカズナギ、ムスジガジ、ゴマギンポ、ダイナンギンポ、ハダカオオカミウオ、タケギンポ、ギンポ、カズナギ、エゾメバル、ケムシカジカ、イソバテング、ギスカジカ、アイカジカ、ベロ、ヤギウオ、アサバガレイ、スナガレイなど。北方系ギンポ類のタウエガジ科やカジカ科魚類が多い特徴がある。 
 
 昭和50年は陸奥湾養殖ホタテの大量斃死問題で揺れ動いた大変な年であった。しかし、翌年冬に、天の助けといえる天然貝の大量発生が連絡船航路下で刺網にかかった稚貝の多いことから発見された。

 このため、自然発生貝の資源調査が昭和52年2月に西湾の中央部を中心に行なわれたことがある。その結果、22億枚からの大きな資源であることがわかり、翌春、特別採捕許可を出して養殖貝、地蒔貝用の種苗として活用されたが、この種苗は斃死せず生産に結びついた幸運な事件として記憶に残っている。

 この資源調査の際、西湾のドロ深い深場を桁網を曳いた所、ニラクサと称する管棲ゴカイの泥で作った長さ20cmあまりの管が密生した草のように繁茂しており、大量に入網した。このニラクサの山の中から這い出してきたピンク色の細長い魚がハダカオオカミウオであった。
 
 この魚は北方系のギンポの仲間であるが、成魚が纏まってとれた記録はなく珍魚といえる。北大西洋では同属の1種が分布しており、泥底に穴を掘って棲息していることが知られている。このことから、本種も泥底に巣穴を持って生活しているものと考えられる。採集されたものの胃からはホタテ稚貝の肉片が発見され、強力な歯で噛み割ってホタテ稚貝を食べていたものである。

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 6)冷水性産卵回遊魚
 ニシン、シロザケ、サクラマス、アメマス、マダラ、ハタハタ、ガジ、ナガヅカ、ホテイウオ、クサウオ、エゾクサウオなど。

 ハタハタは、本場秋田県男鹿半島に続く西海岸の岩崎から鰺ケ沢にかけてが本県の本場である。昭和50年前半までは岩崎では山と海岸に打ち上げられた色とりどりのブリコが見られたものであるが、昭和50年代後半から極端な不漁となり、こんな風景も昔のこととなってしまった。
 実は三厩、牛滝、陸奥湾などでも多くはないが漁獲されていた時代がある。現在でも、孵化直後の仔魚が陸奥湾内で採集されることがあり、どこかで密かに産卵されているものであろう。

 一方、温帯性魚類で本海域が北限となっているものは以下のように、津軽海峡西部海域と比べて極端に少なくなっている。オクヨウジ、サイウオ、ヒイラギ、ホンベラ、スジハゼ、アカオビシマハゼ、ニクハゼ、コモチジャコ、ヒモハゼ、オオミミズハゼ、ナンセンハゼ、メゴチなど。

 以上のことから、本海域は津軽海峡西部海域よりもかなり冷水性魚類が多く、津軽海峡西部海域で見られた温帯性魚類の多くが欠落しており、温帯よりもさらに冷水性が強い冷温帯とされる。もっとも、陸奥湾口部に近い陸奥西湾で温帯性が強く、逆に東湾で冷水性が強いことは当然である。



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