青森農研フラッシュ 第16号

青森農研フラッシュ 第16号(平成19年3月)

◇掲載内容◇

 ○いちごの芽枯れ症状はポット育苗と雨除けで軽減できる  農林総研 畑作園芸試験場 栽培部

 ○デルフィニウム新品種「スピアー」シリーズの育成とその特徴 農林総研 フラワーセンター21あおもり 栽培開発部

 ○野生きのこの栽培化試験 ~ツバヒラタケについて~  農林総研 林業試験場 森林環境部 

 ○破砕処理トウモロコシサイレージの調製及び乳牛への給与技術の開発  農林総研 畜産試験場 家畜部

 ○りんご「ふじ」のつる割れ発生防止対策の確立を目指して  農林総研 りんご試験場 栽培部

 ○ジャガイモシストセンチュウ防除は抵抗性品種「キタアカリ」 の作付けが決め手!  農林総合研究センター 病害虫防除室

 ○ニンニクの品種識別 -依頼研究員研修の成果報告-  農林総研 グリーンバイオセンター 微生物工学研究部




 

いちごの芽枯れ症状はポット苗と雨除けで軽減できる

農林総合研究センター畑作園芸試験場 栽培部
 

  いちごの芽枯れ症状は、八戸市市川地区を中心に、半促成栽培の「麗紅」で主に保温開始後に発生しています。発症株の特徴は、始めに葉柄が褐変し、株の中心部の新芽や花芽が萎れた後、症状が激しい株は枯死に至ります。特に平成10年から11年には、同地区で広範囲に芽枯れ症状がみられ、植え替えが行われるなど、大きな問題となりました。
  平成9年から17年までに畑作園芸試験場に持ち込みのあったいちご生育不良株を診断したところ、病原菌が特定できない原因不明の芽枯れ症状が51%と多数を占めました。
  そこで現地の芽枯れ症状の発生圃場において耕種的防除試験を行った結果、軽減効果が認められたので紹介します。

[芽枯れ症状軽減技術の概要]
1.ポット育苗した苗を定植すると、無仮植苗の直接定植に比べ芽枯れ症状の発生が少 なくなります。
2.定植後の活着期に風水害を防ぐため、定植直後から屋根をビニールで被覆して雨除けを行うと、無被覆に比べ芽枯れ症状の発生が少なくなります。
3.注意事項
  雨除け後は、ハウス内温度がやや高くなり、圃場の乾燥や病害虫の発生が懸念されますので、適切なかん水と病害虫防除を行う必要があります。また、定植前には圃場周辺の排水対策を施すとともに、台風や大雨により畦間が滞水する場合は、速やかに排水してください。なお、基肥窒素施用量は、10a当たり15~20㎏を基準に、土壌診断による分析結果を考慮し加減してください。

  
                                               

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デルフィニウム新品種「スピアー」シリーズの育成とその特徴

農林総合研究センターフラワーセンター21あおもり 栽培開発部

  デルフィニウムは青や水色の花色を特徴とする宿根草で、本県などの夏季冷涼な気候に適する品目です。しかし、市販品種は開花期や花色等が揃わず、温暖地で育成されたものが多いため、必ずしも本県に適さない等の問題がありました。そのため、フラワーセンター21あおもりでは平成8年から育種に取り組み「スピアー」シリーズ3品種を育成し、今年度出願公表されたので、これらの育成経過と特徴について紹介します。

「ブルースピアー」
  市販品種「ブルーバード」の選抜自殖系統に、同「クリアスプリングスライトブルーシェード」の選抜自殖系統を交配した一代雑種品種です。
  市販の青色品種より花色に紫味が少なく、草丈や花穂が長くボリュームがあり、開花や花色の揃いが良好な晩生品種です。平成18年度の試験では、1番花の採花後も比較的欠株が少なく2~3番花も収穫でき、据置き栽培が有利と考えられます。
  市場からは花色が評価され、洋花としてディスプレイ用や葬儀用にも期待されています。

「スカイスピアー」
  市販品種「クリアスプリングスライトブルーシェード」の選抜自殖系統に、同「クリアスプリングス」混合種子由来実生の選抜自殖系統を交配した一代雑種品種です。
  花色が澄んだ空のような水色で、開花や花色の揃いが良い晩生品種です。草丈は中程度で、花は小さいが、数が多くボリューム感があります。また、茎が非常に硬く扱いやすい特徴を有しています。夏に1番花を採花した場合、欠株が多くみられ1回切りに適すると考えられます。
  市場からは他の花色とも合わせやすく需要は大きいとの評価を頂いています。

「イエロースピアー」
  海外から導入した種子由来の実生を選抜し、組織培養で増殖を行った栄養系品種です。
  市販品種にはない淡黄色の花色で、切り花長や花穂長のボリュームは中程度ですが、淡黄の花色と比較的大きな花弁が相まって豪華な感じがする晩生品種です。
  1番花収穫後の欠株はほとんどありませんが、2番花は草丈が短く花蕾数が少ないため、小さな装飾に適します。
  市場からは花色が注目され、ブライダル等にも使用できると期待されています。
 
  なお、上記3品種に続く「スピアー」シリーズとして、花色がラベンダー色の「青フラDel11号」について、平成19年度以降のデビューに向けて試験中です。

     
    ブルースピアー        スカイスピアー       イエロースピアー
 

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野生きのこの栽培化試験 ~ツバヒラタケについて~

農林総合研究センター林業試験場 森林環境部

  野生のツバヒラタケは全国的にも珍しく、ヒラタケ型をした大型のきのこで、形は傘の縁が内側に巻く丸山型、傘の表面は淡灰褐色の微毛に覆われ粘性はなく、傘の周辺部ではほぼ白色です。青森県では、絶滅危惧Cランク種(青森県レッドデータブックによる)にもなっているきのこです。
  今回、黒石市内のりんごの木に発生していたツバヒラタケから組織の一部を分離培養し、試験栽培を行った結果、以下のことが明らかとなりました。

菌床培地基材
  ブナオガクズとスギオガクズではブナオガクズが培地に適して います。スギオガクズ培地では発生量が少なく、培地資材等を検討する必要があります。

適正培養期間
  ブナオガクズ培地及びスギオガクズ培地のいずれも、培養期間はビン栽培で約1ヶ月~40日培養で栽培できます。
期待できる発生重量
  環境条件等さらに検討が必要ですが、ブナオガクズ培地のビン栽培では約80gは可能です。

食材としてのツバヒラタケについて 
  場内のアンケートでは「食感として歯触りがよい、歯ごたえがある、香りがよい」などの反応を得ています。見た目も日持ちも良く、新鮮さを保ち、質感もあるきのこらしい形をしています。
  また、総合販売戦略課を通じて、東京の赤坂離宮の広東料理専門店に食材として提供したところ、料理専門家から「蒸し物、炒め物、焼き物などに向き、中華食材として良い」との評価を頂いています。

今後の課題として
  野生のツバヒラタケは、これまで分離できている系統は1種類しかなく、継代培養保存を繰り返すうちに、菌株の劣化や変異も懸念されることから複数の菌株を確保し、栽培に適した品種を見つけていくことが必要となります。
  このような野生のきのこの情報がありましたら、当試験場にご連絡頂きたいと思います。

  
 

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破砕処理トウモロコシサイレージの調整及び乳牛への給与技術の開発

農林総合研究センター畜産試験場 家畜部

  一般的にサイレージを調製する場合、トウモロコシは養分含量の高い黄熟~黄熟後期に収穫し、切断長は繊維の物理性を確保しながら種皮を傷つけることで子実の消化性を高めるため10mm程度とします。しかし、種皮が硬いため子実の一部は未消化のまま糞中に排せつされ、主成分であるデンプンを損失しています。
  近年、細断に加えて子実を押しつぶす機能を装備したハーベスターにより、トウモロコシサイレージの消化性を向上させる方法が北海道を中心に普及しつつあり、本県でも北部上北地域のコントラクター組織が本機を導入し、破砕処理サイレージの調製とこれを用いたTMRの生産・配布に取り組み始めました。
  破砕処理の利点は、種皮が傷つけられるためルーメン内(第1胃)でのバクテリアの消化を受けやすくなり、従来法では未消化のまま排せつされていた子実が大幅に少なくなるのでトウモロコシサイレージそのものの栄養価が高まることです。
  しかし、未破砕に比べてルーメン内におけるでんぷんの消化が早くなると予測されるため、ルーメン内のpHを適正に維持し菌体蛋白の合成効率を損なわないよう分解性の高い蛋白質の適量供給等が必要となり、従来のトウモロコシサイレージ給与時とは異なった飼料の組合せ給与が必要になることが想定されます。
  このようなことから、本試験では、基幹粗飼料として乳牛へ給与する場合を前提に、破砕処理トウモロコシサイレージのルーメン内における消化特性を解明し、これを踏まえた適正な飼料の組合せを明らかにすることとし、県内のコントラクター組織におけるTMR調製や給与酪農家への技術提供をねらいとしています。

  
 

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りんご「ふじ」のつる割れ発生防止対策の確立を目指して  

農林総合研究センターりんご試験場 栽培部

  りんご「ふじ」は良食味で貯蔵性が高く、国内りんご総生産量の約半数を占める最重要品種ですが、欠点の一つに通称「つる割れ」と呼ばれる裂果がしばしば発生します(写真1)。しかし、この発生要因については十分に解明されておらず、袋かけをすること以外に効果的な防止対策が確立されていません。そこで、つる割れの発生要因の解明と防止対策の確立を目指した研究に取り組んでいます。

  

  収穫期前に果実を縦に割ってみると、つるもとに亀裂が発生していることがあり、外側から見えないことから、「内部裂果」と呼んでいます(写真2)。つる割れはこの内部裂果の亀裂が拡大した結果ですので、内部裂果の発生をどれだけ抑えられるかが、つる割れの発生を防止する上で重要になります。
  当場の研究から、内部裂果は果実が盛んに肥大する時期である8月下旬頃から発生し始め、この時期に肥大がより旺盛な果実ほど裂果しやすいことが確認されました。また、この時期の降水量が多い年ほど裂果が多いことも明らかになりました(図1)。このことから、降雨による果実肥大の急激な増大を抑えることが、防止対策の鍵になると考えられます。  
  これらの成果をともに、現在、樹勢調節、樹冠下マルチの敷設、植物生育調節剤の利用などでつる割れの発生を防止できるか検討中です。
  
  
  

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ジャガイモシストセンチュウ防除は抵抗性品種「キタアカリ」の作付けが決め手! 

農林総合研究センター 病害虫防除室 

  ばれいしょ栽培に重大な影響を及ぼすジャガイモシストセンチュウが平成15年に本県で発生しました。現在、県内の7市町村89地点で発生が確認されています。この線虫は雌が成熟すると“シスト”という独特の形態となり、その中にたくさんの卵を蓄えます。シストは耐久性が強く、その中の卵は10年以上も生存できるといわれています。現在、広く栽培されている「男爵薯」や「メークイーン」などはこの線虫の寄生により被害が発生しやすく、また収穫時にはたくさんのシストが形成されるため、圃場の線虫密度が急激に上昇します。シストは土壌とともに耕作機械などに付着し、新たな場所へ伝搬されるので、圃場の線虫密度が高くなるほど伝搬の危険性が高くなります。線虫は発生圃場からは根絶できないので、圃場の線虫密度を低く保つことが、被害を抑え、発生の拡大を防止する最善の策です。その決め手となるのが抵抗性品種「キタアカリ」の利用です。「キタアカリ」を1作作付すると、収穫時の線虫密度は植付前の2割以下まで低下し、2~3年で高密度(乾土1g当たり100卵以上)の圃場が低密度(乾土1g当たり10卵未満)に戻ります(図1)。これは、線虫が抵抗性品種の根によく寄生するのですが、途中で死滅してしまい、シストが全く形成されないためです。
  線虫の寄生による被害程度は植付前の線虫密度によって決まり、線虫に弱い感受性品種の「男爵薯」では中密度(乾土1g当たり10~100卵未満)から減収するのに対し、抵抗性品種の「キタアカリ」では高密度で減収が起こります(図2)。そのため、高密度圃場に「キタアカリ」を作付する場合、初年目は薬剤防除が必要ですが、翌年からは線虫密度が低下するため薬剤防除は不要となります。なお、使用する薬剤としてネマトリンエース粒剤20kg/10aかバイデートL粒剤30kg/10aの植付前全面土壌混和が有効です。

   
     写真 線虫被害と根に付いたシスト

  
     

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ニンニクの品種識別 -依頼研究員研修の成果報告-

農林総合研究センターグリーンバイオセンター 微生物工学研究部 佐々木 健

  グリーンバイオセンターでは、ニンニクの品種識別を行うためのDNA分析技術の開発を進めてきましたが、これまで多型を示すマーカーがうまく得られていませんでした。
  この度、(独)農業・食品産業技術総合研究機構が行っている依頼研究員受入れ制度を利用し、三重県にある野菜茶業研究所(安濃本所)で品種識別技術について研修を受けたので、その成果を報告します。
  野菜茶業研究所にはネギのゲノム研究を行っているチームがあり、ネギやタマネギのDNAマーカーを数多く持っています。ニンニクも同じネギ属であり、それらのマーカーがニンニクの品種識別に利用できるか検討しました。およそ500組のネギ及びタマネギのマーカーから、PCRによる増幅バンドがニンニクで安定して得られるものを選抜した後、国内在来品種や海外の系統を合わせた25系統間で、増幅バンドのサイズに違いがあるか調査しました。その結果、24組のマーカーが多型を示し、そのうちの8組のマーカー組み合わせで、供試した25系統をすべて識別できました(第1表)。しかし、増幅バンドが得られにくい系統もあり、系統数を増やした場合に識別が難しくなると考えられました。
  今後は、依頼研究員研修で学んだ知識や技術を活かし、さらに精度の高い識別マーカーをニンニクで開発していく予定です。研修を受け入れて下さった野菜茶業研究所の皆様には、この場を借りて御礼申し上げます。

  


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