カサゴ目
フサカサゴ科 オニオコゼ科 アイナメ科 コチ科 ケムシカジカ科
カジカ科 トクビレ科 ホウボウ科 ダンゴウオ科 クサウオ科
ウバウオ目
ネズッポ科
カサゴ目
フサカサゴ科
ソイ、メバル類を含み、26種が知られる。多くの有用種を含む。
ハツメ
日本海、太平洋の底曳で漁獲されるもので特に日本海に多い。全長30cmに達する。体は黄色がかった朱色で、肉質は柔らかい。メバルの中では評価が低いようであるが煮つけ、塩焼が良い。
本種は青森県産標本によって大正4年に新種記載されたもので、4個体の標本はアメリカのカーネギー財団博物館に保存されている。ただし、産地は青森とあるだけで、詳細は不明であるが恐らく日本海の底曳ものであろう(Jordan
and Thompson,1914)。
地方名:ウグイス(鰺ケ沢、小泊)、キンギョ(深浦、鰺ケ沢)、ハチメ(鰺ケ沢)、アカスイ(八戸)
ヤナギノマイ
ハツメよりも体高が高く、体色も紫がかった赤黒でドギつい。日本海沿岸の200m以浅の岩礁域で主に1本釣で漁獲される。地元ではドギつい体色のためか敬遠され評価は低い。しかし、煮つけで美味である。全長30cm。
地方名:ヤナギ(龍飛、鰺ケ沢)、ヤナギノメ(鰺ケ沢)
エゾメバル
地味な黒褐色の体に、微小な青白点を散らす。沿岸性が強く、昭和40年代には陸奥湾でもごく普通種であったが、今では珍しい位となった。地方名のガヤは釣れ出すとうるさい位に釣れることからという。肉質は柔らかく、煮つけで美味。全長25cm。
地方名:ガヤ(陸奥湾、下北)、カスリガヤ(牛滝)、ミノガサ(岩崎)、ゴモゾイ(小泊)、 ムギマ(鰺ケ沢、小泊)
メバル
沿岸性で、全県沿岸に産する。体色は変異に富み、黄褐色から黒褐色を呈する。全長30cm近くになるが、本県ではあまり大きくならない。夏から秋にかけての夜釣りの好対象魚である。肉質はよく締り、刺身、塩焼、煮つけと美味である。
地方名:ガサ(鰺ケ沢)、ガヤ(日本海〜陸奥湾、八戸)、クロガサ(深浦)、コダルマ(八戸)、ソラフキ(脇野沢)、メハチ(下北)
ウスメバル
全県に産するが、小泊、下前沖の水深100m前後の岩礁地帯が主漁場である。刺網、1本釣で漁獲され、昭和50年代初頭までイカ釣漁業に並ぶ重要な資源であった。刺網の許可期間は産仔後の6〜8月の3カ月間であり、夏場
の漁である。最盛期には西海岸だけで1千トン近くの漁獲があったが近年では資源が低迷しており、主に1本釣漁で数十トン程度と激減した。
築地市場では小泊のメバルは海峡メバルのブランドで有名である。東京市場では赤メバルと称する。全長30cmを越す。
肉質は固く締っており、刺身、塩焼、煮つけで美味。
地方名:アオマナコ(白糠)、アカガサ(深浦)、アカガヤ(茂浦)、アカスイ(八戸)、ツキ(鰺ケ沢、今別、牛滝)、ツキゾイ(下北)、テリ(岩崎)、テンカラ(小泊、尻労))、メガラ(八戸)
県統計では平成8年までヤナギメバルとなっているのは本種のことであるので注意を要する。

写真
ウスメバル.
増養殖研究所で生産したウスメバル稚魚.飼育して約3ヶ月で全長は50mm,すでに親と同じように体側に5本の横帯が形成されている.
アコウダイ
バラメヌケの若魚に似るが、頭部背面に暗色横帯がないことと、眼窩下縁の前後に棘があることにより区別される。全身鮮紅色を呈する。全長60cmに達する大型魚である。太平洋深海に産する。
地方名:アコウ(八戸)
バラメヌケ
太平洋での底曳、延縄で普通。メヌケ類の中では体高が最も高く肥厚する。全長40cmに達する。刺身、煮つけで美味。
マダイ、チダイなどタイ類を殆ど産しない南部地方では体色が鮮紅色のメヌケ類は祝儀魚として重用される。
地方名:ガマ、ガマサガ、ガマス(八戸、白糠)、バラ(サガ)(下北)、バラメヌケ(八戸)

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バラメヌケ(太平洋底曵).
オオサガよりも小振りであるが本種もキチジと並ぶ赤物の祝儀魚.
サンコウメヌケ
太平洋沖合での底曳、延縄で漁獲される。 メヌケ類の中では体高が最も低く、体は金色がかった鮮紅色を呈する。漁獲量は最も少ないが、味は最高とされる。全長50cm。
地方名:キンサガ(キンメヌケ)(下北、八戸)、サンコウ(サンゴメヌケ)(下北)、ヒカリサガ(下北、八戸)
オオサガ
メヌケ類中最大で全長60cmを越す。水深千mもの太平洋深海に進出しており、底曳、立延縄等で漁獲される。水産試験場の深海漁場開発試験では小川原湖の沖合にある小川原断層の斜面をうまく曳くと本種が多くかかり、浮袋が膨らんで浮力がつくため、袋網が音を立てて浮き上がったものである。目玉も殆どのもので飛び出す。 刺身、鍋料理、粕漬、味噌漬など。
地方名:オオサガ、オッコ、オオッコ、オッサガ(八戸)、オオメヌケ(下北、八戸)、コウジン(下北、八戸)

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オオサガ.
太平洋深海底曵.太平洋沿岸での赤物の代表的なもの.
タケノコメバル
沿岸性のもので、体の地色が黄色がかっている点に特徴があり、暗褐色の斑紋を多数持つ。筍の皮を連想させる処から来た和名と思われる。通説では旬が筍の出回る頃であるからという。南日本のものである。
陸奥湾でも昭和40年代には結構とれていたものであるが、最近は殆ど見かけない。
地方名:キゾイ(野辺地)、キリゾイ(陸奥湾)、デクロゾイ(陸奥湾)、モガラス(脇野沢)、モゾイ(今別、野辺地、牛滝)
クロソイ
一口にソイ・メバルというが、その違いは漠然としている。しかし、一般的にはメバルは体が側偏形であり、頭部にある棘の発達が弱いが、ソイ類は体幅が中庸に肥大しており、頭部によく発達した棘をもち、粗雑な印象を与える。しかし、この呼び名は厳密なものではなくキツネメバルのようにソイ類としなければならないものにメバルと名づけているものもあるので注意を要する。
産業上重要なソイ類は本種とキツネメバルの2種である。本種は幼期には地色は黄緑色がかった明るい色であるが、成長に連れ体色が全体に黒くなる。全長50cmを越す。幼魚期には浅海の岩礁地帯や藻場等で過ごすが成長にともない深みに去る。晩秋に交尾し、5月に産仔するため浅海に来て6-7mmの仔魚を産
仔する。この頃の雌親の腹部ははちきれんばかりに膨れ、卵巣は発眼した仔魚で充満しており最も不味の時期である。稚魚期から全長5cm位までは沿岸を漂流する流れ藻に付随する。
旬は冬場とし、三枚に卸してぶつ切りにしたものにさっと塩をふり、野菜と共に塩仕立てで煮込んだ鍋は最高の味である。クロソイを刺身に卸す際、筋肉中に黒い胡麻粒状のものが多数埋まっていることがあり、消費者から苦情が持ち込まれることがある。これは寄生虫(へん形動物門吸虫綱ジスト
マの類)の後期幼生(メタセルカリア)で最終宿主は海鳥のヒメウという。魚の筋肉中に寄生した幼生は魚の異物反応によってメラニン色素で覆われて黒くなる。寄生虫そのものは人体には何等影響しないものであるが、見た途端に食欲をなくしてしまうものである。不思議にクロソイで発見されることが多い。時期的なもので、夏から秋にかけての期間に見られる。なお、この寄生虫は北海道、青森の日本海産のもので多く見られ、大平洋産では殆ど問題とならない。
地方名:スイ、スイカラ、スイコ、スガラソイコ(八戸)、ナガラ(ゾイ)(一般)、ネゾイ(陸奥湾)、ハマオトコ(むつ)、モガラス(陸奥湾)、ワタリゾイ(岩崎、鰺ケ沢、茂浦)

写真 クロソイ
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5〜6月ころ流れ藻に付随する稚魚期のクロソイ.
キツネメバル
クロソイとは体色が小豆色ないし暗紫色を呈し、体側に幅広い2暗色横帯を持つこと、眼前骨に棘が発達しないこと(クロソイでは3棘あり)等で容易に区別される。クロソイよりも少なく、また高価である。
稚魚期にはクロソイのように流れ藻に付随することは少ない。幼魚期には体側に幅広い黒褐色の2横帯がはっきりしている。
肉質はクロソイよりも柔らかく刺身で賞味される他、鍋、塩焼もよい。
地方名:アズキゾイ(岩崎)、クラカケ(龍飛)、ネゾイ(鰺ケ沢、平舘)、マゾイ(一般)

写真 キツメメバル
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小泊村産.マゾイと称されクロソイよりも喜ばれる.
ムラソイ
黒褐色の地肌で、胸部、腹面に小褐色班を散在させたムラソイは南日本に見られる型で、北日本では黄褐色斑型のオウゴンムラソイ、赤色斑型のアカブチムラソイと3亜種の扱いをされてきた。本県ではムラソイは少ない。
浅海岩礁域に産するもので、岩の下に生息する甲殻類のカニダマシ類を専食しており、釣り上げるとすぐ水分の多い糞をすることから名づけられた地方名が多い。浅い岩場での刺網で漁獲される。全長20cm前後。惣菜魚。
地方名:クソガサ(鰺ケ沢)、クソッピリ(脇野沢)、クソビジ(今別)、ビチクソ(佐井)、ゴソ(陸奥湾)、ハジガラ(ハチガラ)(龍飛、三厩)、ビッキゾイ(小泊)、ボッケゾイ(龍飛)、モッケゾイ(牛滝)
イズカサゴ
日本海、太平洋の底曳で漁獲されるが多くはない。全身赤く、頭部は縦偏している。全長35cm。惣菜魚。
地方名:アカドク、ドク(岩崎、深浦、鰺ケ沢)、カサゴ(三厩、今別)、ハナオコゼ(赤石)
キチジ
全身朱赤色を呈し、身は柔らかいが背鰭、頭部の棘は鋭い。船上の作業員はこの棘に刺されるのを恐れる。太平洋深海の最重要資源である。底曳水揚げ収入の殆どは本種に依存しているといっても過言ではない。全長30cm余り。
白身であるが独特の肉質であり、脂分が多く塩仕立ての吸い物、煮つけ、塩焼、鍋物など何でも良い。
北の海の幸の逸品であり、遠来の客があった際には是非奨めたい一品である。
地方名:キンキン(一般)、キンギョ(10cm未満の小型魚)(八戸)

写真
キチジ
太平洋深海底曵.脂肪が多い独特の肉質で鍋物・塩焼きとなんでもよい.北の海の幸の逸品である.太平洋底曵の最重要魚種である.
オニオコゼ科
オニオコゼ
全身にボロをまとい、岩か、海藻の切れ端に化けたか?実にうまい隠れ忍術の使い手である。環境の色に合わせ、黄色から赤、黒までさまざまに変身することができ、また、砂礫に潜り、頭部の一部だけ出していることもある。胸鰭の下端2鰭条は遊離して、まるで足の如くはい回ることも出来る。
背鰭には毒針と化した棘条が17本、戦艦の高射砲よろしく右に左に狙いをつけて近寄る外敵に向けられている。目は丸く突き出しているが、前後はひどく凹入しており、口はほぼ垂直に上を向いた異形の相。何も気づかないで近寄った小魚をパクッとひと飲みにする。日本海ではやや普通であるが、本来南日本の魚である。異形の相、背鰭の毒等、怖いもの見たさの心境と相まって人気を呼び、特に冬から早春の頃、トラフグ並みの超高級魚扱いである。近年、刺身、唐揚げ、味噌汁いずれも高級料亭でなければ味わえない代物となった。そのため、養殖物も出回るようになった。
地方名:オコジ(ズ)、オコゼ(一般)
アイナメ科
クジメ
体の地色は暗褐色で、目より大きい淡色円斑を散らす。次種アイナメに似るが鱗が大きく粗雑な感じがある。
潮下帯の藻の多い浅い岩場に多く、大物がよく潜んでいる。波に揺られて体をリズミカルに左右に傾けている様は、まるで岩を枕に昼寝を決め込んでいるようなユーモラスさがある。この生態から地方名イシテグラ(石手枕)が出たものと思われる。浅い所で簡単に見つかることから、海辺で育った子供には魚突きの良い獲物である。
味は磯の香りが強く、癖があるが、味噌田楽で賞味される。全長30cm。
似たものにスジアイナメがある。こちらは側線が多いことから区別できる。多くはない。
地方名:アオドコ(陸奥湾、下北)、アグトク(鰺ケ沢)、アブラッコ(日本海、八戸)、アミドコ(下北)、イシテグラ(八戸)、イソテナ(下北)、ハマドコ(下北)、ハゴトコ(陸奥湾)
アイナメ
クジメより大形になる。特に北日本では大形となり全長50cmを越す。南日本ではせいぜい30cm程度にしかならない。
クジメとアイナメの区別点として、側線が5本とあるが、実際には側線を見定めるのは難しい。しかし、腹部のものは見やすいのでまず腹側を観察すれば良い。
晩秋に岩の窪み等に粘着卵を塊状に海草等に絡ませて産卵し、黄色の婚姻色を現した雄親が孵化するまで保護する習性がある。クジメと違って、大形魚は産卵期に浅場に来るが、その他の季節には相当深みに移動する。
本科魚類の幼期には青色適応といって体背面が青く、側腹面が銀白色を呈し、海の表層部を生活の場とする習性がある。全長5cm程で急激に体色が褐色に変化して底生生活に移行するのである。
陸奥湾では油目籠という籠をホタテの養殖施設の下に設置してソイ・メバルなどと共に漁獲する。本種の物陰に隠れる習性を利用した簡単な漁法である。
冬から春までは不味であり、旬は夏である。刺身を最上とする。醤油漬、照焼も良い。
地方名:アブラコ(アブラッコ)(下北)、アブラメ(一般)、ワタリアブラメ(龍飛)、キロキロ(八戸)、シンジュ(深浦、鰺ケ沢)
なお、地方名アブラメはもともと関西方面の呼び名であり、アイナメは東京近辺の呼び名である。
ホッケ
全県沿岸に産するが主産地は北海道である。幼期には表層生活をするが全長20cm前後から水深100m程の深味で着底生活に移行する。従って、底曳網漁法が主なものである。春先3月頃のものは脂が乗って赤ボッケと呼ばれ旬の魚である。小型のものはロウソクボッケと呼ばれ、脂がなく不味であるが、養殖用の餌として利用価値がある。北海道では大形の背開きは、焼き魚として酒場で欠かせないものである。塩焼の外に、醤油漬、すり身の汁も旨い。
コチ科
本科魚類にはメゴチ、イネゴチ、コチの3種が知られる。この中ではコチが最も普通種である。
コチ
頭部から尾部にかけて背面を押しつぶした典型的な縦偏形であり、側面から見ると誠に頼りない。背面観は、頭部が扁平であるためワニかトカゲを連想させる。しかし、この形態は砂浜浅所で砂に潜る習性があることから、潜砂するのによく適応しているといえる。尾鰭後半部の白く縁どられた3黒斑が著しい特徴である。全長1mに達し、コチ科魚類の中では最大種である。
本県沿岸では日本海に多く、太平洋では稀である。岩崎では全長50cmのものも稀ではない。白身でやや硬く癖のない味から刺身、洗い等で喜ばれる高級魚である。旬は夏。
本県でコチと称する魚は本種ではなく、多くは釣の外道でかかるネズッポ科のセトヌメリ、トビヌメリなどを指すので注意を要する。
ケムシカジカ科
本科にはケムシカジカ、イソバテング、ホカケアナハゼ、オコゼカジカの4種が知られるが、食用価値のあるものは次種のみである。
ケムシカジカ
本県全沿岸に分布する大形のカジカである。背鰭の様子はオニオコゼによく似ており、各棘間の鰭膜が深く切れ込んでいる。体は全体に粗雑であり、ザラつく。全体にうす汚れた茶褐色を呈するが腹面は青緑色を呈し、飽食しているためか大きく膨らんでいる場合が多い。
刺網、底曳等で漁獲される。産卵期以外は水深100m前後のかなり深い所にいる。産卵期は晩秋で、岩礁域の波打ち際の浅い所にやって来て、直径4-5mmの赤橙色の大形卵を
岩の隙間等に産み付ける。卵は相互に付着して卵塊をなす。この頃、夜、明かりをつけてヤスで突きとるのを楽しみにしている処も多い。
皮を剥いでぶつ切りにし大根と共に煮た味噌汁は旨い。肝臓からは良いダシが出る。卵巣卵、身共に飯鮨に、また、卵をサケ卵のように醤油漬として利用する。本県のカジカの仲間では最も重宝される魚である。全長35cmに達する。
地方名:サゴカジカ(牛滝)、サルカツカ(八戸)、トウベツ(カジカ)(一般)、モカジカ(陸奥湾)
カジカ科
北日本に多い種で、本県でも34種の分布が知られる。殆どは全長15cm以下の小型種であり、食用となるものはギスカジカ、トゲカジカ、ニジカジカくらいのものである。この内、ナベコワシとも称されるトゲカジカは北海道が本場で八戸沖底曳で稀に漁獲される程度である。オニカジカはケムシカジカと共に刺網で漁獲されるが、前鰓蓋骨の長大な逆とげのある棘は刺網から外す際の邪魔となり、食用としての価値はなく顧みられない。
海産カジカ類で体内受精することが初めて明らかにされたのはアサヒアナハゼ(塩垣・道津、1974)であり、その後、多くの種で卵胎生の習性を持つことが知られている(アサヒアナハゼ、アナハゼ、サラサカジカ、ニジカジカ、
イソバテングなど(宗原・三島, 1986;Munehara,1988)。
イソバテングでは卵は卵巣内で精子と会合しており、精子は卵門管内まで侵入しているが受精には至らず、産卵されて海水中に放出されて初めて受精する。それまで受精が抑制される機構があるものと考えられている(Munehara,
H., K. Takano and Y. Koya, 1991)。
アサヒアナハゼにおける交尾行動の水槽内での観察では雄の生殖突起は自在に動かすことが出来、雌の体の側面に近寄り体を90度回転して腹面を雌の体側に付け、その姿勢で生殖突起の先端を雌の生殖口に瞬間的に挿入する(塩垣、未発表)。交尾を終えた雌は岩盤(ニジカジカ、ベロ、オニカジカ、)、マボヤの体腔内(アサヒアナハゼ、アナハゼ、サラサカジカ)、カイメン組織内(イソバテング)、岩の間隙、管棲ゴカイ類群体間(ケムシカジカ)等に粘着卵を産み付けることが知られている(宗原、1999)。しかし、まだ多くの種の産卵習性は未解
明のままであり、残された興味深い分野といえる。
ギスカジカ
前鰓蓋骨に3本の棘をもち、最上棘が最大、腹部に大きな白色円斑を持つ。頭が大きく丸く、水底に座った姿は石に化ける魚である(英名Stone fish)。環境に合わせて、得意 の隠れ忍術を使い、石のように不動の姿勢を崩さず、餌が近寄ればパクリの忍法である。全長30cmに達する。食味はケムシカジカより劣る。
地方名:ギス(一般)、ギスアタマ(龍飛)、サケノミカジカ(階上)
フサカジカ
地味な色合いの多いカジカの中にあって、本種の体色はまるで絹織物にしっとりとした色付けをした着物のような優美なものである。龍飛、三厩の岩礁海岸の藻が多く着生している浅い所に生息しており、全長5cmほどの小型のもので食用としての価値はない。しかし、十分に観賞魚としての価値はあろう。
写真 フサカジカ.
三厩村産.岩場の藻類が繁茂する間に生息する小型種.優美な体斑紋も偽装のため.
ニジカジカ
日本海、太平洋底曳で混獲されるもので、余り大きくならない。全長20cm前後。昔は全く相手にしなかったものであるが最近市場に出回るようになった。体は無鱗で体表から粘液を出すため、ヌルヌルしている。
本種でも胎内受精型であることが確認されている。普段は深い所にいるが、北海道噴火湾臼尻では産卵期は5月頃で、沿岸浅所の岩礁地帯で岩盤の上に一層の密な卵群を産み付ける。本種では産卵と同時に交尾が行なわれるという(宗原・三島,1986)。
食用としての価値は低く、せいぜい吸い物種になる程度である。
地方名:シスコ、ススコ(牛滝)
ムツカジカ
本種はコラムでも紹介しているように、八戸市鮫で得られた2個体の褪色した標本によって新種記載がなされたものである。以来、多くの研究者が新鮮な成魚標本を得るべく努力してきたが、その存在は謎に包まれたままであった。
小生が三厩・今別担当の水産業改良普及員をやっていた昭和57年10月23日、三厩村の鳴神の岩礁地帯の、いつも白波が立っている水路のような岩礁の裂け目で潜水採集をした所、多数の本種標本を得た。体腹面には白い泡に擬装した多数の白色円斑がある。このような特殊な環境にしか生息しない理由が納得できたものである。新鮮な標本を得て、それまで殆ど斑紋といえる程のものはないとされていた本種の派手な斑紋を正確に報告できたのは幸いであった(Shiogaki, 1987)。
写真 ムツカジカ.
三厩村産.体腹面に多数の小白色円班を散らす.人を寄せつけない波が岩を噛み常に泡立つような岩礁域に生息する.
アサヒアナハゼ
湾内藻場に優占する種で、雄には立派な軟骨質の突起を持った交尾器がある。魚食性が強く、ホンダワラなどの繁茂している所で藻の上に乗って獲物が近づくのをじっと待ち伏せしている姿をよく見かける。全長15cm。
湾内の蓬田では昔、藻場での藻曳網でハナジロガジ、アイナメなどと共に大量に混獲され、煮干として利用されていたが、ホタテ養殖が盛んとなった現在、藻曳網漁は禁漁となって昔懐かしい味を味わえなくなった。
本種と似たものにアナハゼがあるが、アナハゼは全長30cmにもなり幼魚期を除いては深味にいる。生殖期の雄は全身真っ黒となる。
産卵生態については前述したが、交尾を済ませた雌はマボヤの出水口に長く伸びた産卵管を挿入して1-2秒で産卵を終了するという 。湾内に多産するマボヤの胎内の、しかも出水口側を利用するとは何ともうまくできている。間違って、吸水口側に産卵すれば孵化した仔魚がうまく脱出できないのであろう。
地方名:ゴモヨ(牛滝)、バカアオドコ(三厩、今別)、ヘチョナガ(臍長の意)(蓬
田)
トクビレ科
トクビレ
本科には13種が知られるがこの中で食用とされるのはトクビレのみであろう。コラムでも紹介したように本種の模式標本は本県陸奥湾産のものである。県物産陳列場に干燥標本となって展示していた全長240mmの雄の1標本を貰い受けて本国に持ち帰り記載している。
硬い鱗が骨板となって4縦列をなし体を覆う。体の断面が八角形をなすことから後述の地方名ハッカクが出た。吻が長く尖りヒゲを蓄えること、雄では第2背鰭と臀鰭が異常に高く伸び団扇のように広がるなどの特徴を持つ。日本海、太平洋の底曳で漁獲される。
雄で大形となり全長40cmを越す。外観に似合わず肉は白身で上等。刺身や背開きにしたものに味噌を添えて焼く軍艦焼は珍味。
ジョルダンが来青した明治33年頃には青森でサチと呼ばれていたのであろう。種小名はsachi となっている。
地方名:トビオ、トンビ、ハッカク(八戸)

写真 トクビレ.
ジョルダンとスナイダーが新種記載したトクビレ.オス、体長24pの乾燥標本(Jordan
and Snyder,1901)
ホウボウ科
ホウボウ
日本海、太平洋沿岸での底曳、刺網で稀に漁獲される。次種カナガシラとは鱗が細かく肌が滑らかであること、胸鰭の内面は淡緑色で目も覚めるような美麗な瑠璃色の小円斑を散らす点で容易に区別される。この仲間は浮袋を振動させて鳴くことで有名であり、その擬音ボウボウが名の由来のようである。全長40cmに達する。
胸鰭下端の3本の鰭条が遊離して足の働きをする。おまけに、その先端には味覚を掌る器官が発達しており、底泥に隠れている餌を探し出す芸当をやってのける。
頭が固く鎧兜を付けたような丈夫な魚であることにあやかって、昔、子供の産まれた家では次種カナガシラとともに慶賀の膳に用いたとある。
肉は白身で上品な味であり、刺身、塩焼、煮付け、吸い物などに利用され高級魚である。旬は冬である。
地方名:キミオ、キミヨ(君魚のなまったもの、西海岸)、キンミョウ(龍飛)、コトブキ(西海岸、下北)などとめでたい名が多い。
カナガシラ
全身朱赤色を呈し、ホウボウよりも赤味が強い。胸鰭内面は多少黒ずんでいるが斑紋はない。昔は全県沿岸の底曳、刺網、延縄等で多獲され庶民の魚であったが、昭和50年代以降魚影が極端に薄くなった。冬から春先が漁期である。市場では金頭(かながしら)から「イロハかな」のかしらである「イ」とかキントの符牒が用いられている。
本県ではぶつ切りを味噌仕立ての鍋で食べることが多い。他に、塩焼、味噌煮。戦前の上磯地方では正月料理に塩焼を出したという。漁があった時は、延縄の餌としても用いられた。全長30cm。 旬は早春。資源の悪化が著しい。
地方名:イ、イジルシ、キント(一般)、キントン(八戸)、ニンベン(八戸)、ギミ(深浦)、ダンカ(脇野沢)、ススボ(鰺ケ沢)
ダンゴウオ科
冷水性のもので、本県では深海に産するものが多く5種が知られる。この内、最も大形となり食用とされるのはホテイウオのみである。
ホテイウオ
骨質の突起物を欠き、体表は滑らかである。腹部に腹鰭が変形した腹吸盤が大きく発達しており岩などに吸着できる。普段は深い所にいるようであるが産卵期の冬に浅い岩礁域に産卵のためやって来る。この時が漁期である。岩崎では2月頃、刺網やヤス突により漁獲される。味噌汁とする。これは、函館の名物料理の1つとなっている。
卵は粘着卵で岩の隙間とか海草などに産みつけられ雄親が保護する習性がある。抱卵雌は発達した卵巣が大きく膨れて、まるで布袋様のようであることからホテイウオの和名が出た。北欧に分布する近縁種にLumpsuckerがあるが、この卵巣卵はキャビアの代用品となる。
地方名:ゴッコ(一般)
クサウオ科
本科魚類も殆どが深海魚であり、食用となるものは少ない。12種が知られている。
クサウオ
本科魚類の中では最大で全長50cmに達する。腹吸盤は小さい。陸奥湾では冬場に外海から入ってきて定置などに乗るが少ない。
漁家では軒先などにぶら下げてカラカラに乾燥させて保存食とする。市場に出ることはない。
近縁種にエゾクサウオがあるがクサウオよりも小型で、背鰭後端と尾鰭の癒合する部分が小さく尾鰭がはっきりしている点で区別出来る。
地方名:ゴンダラ(一般)、ボンダラ(牛滝)
アバチャン
深海魚。皮膚が寒天質でブヨブヨしている。体に派手な斑紋のないものが殆どであるが本種は例外で、夏向きの水玉模様を連想させる。
ウバウオ目
ネズッポ科
体は無鱗で体表から多量の粘液を出すため、ネバネバする。口は小さく、斜め下方に大きく伸出できる。前鰓蓋骨に逆鈎を備えた独特の棘が発達しており、釣り上げた際、これで痛い目にあった人も多かろう。一般にコチと呼ばれているもので本県に8種が知られる。岸壁等からの投げ釣りで外道として釣りにかかるものは殆ど
セトヌメリか
トビヌメリである。また、陸奥湾中央部の深みには第1背鰭が糸状に長く伸びたハタタテヌメリを多産する。
本県では食用としないが、東京では江戸前の天ぷらダネとして重宝される。
地方名(総称):キス(油川)、コチ(一般)、ススコ(牛滝)
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