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他海域との比較

 これまで、本県各海域における魚類分布の特徴と生物地理区分について概説した。しかし、本県魚類分布の特徴は日本列島主要海域のそれとの比較を行なって初めて全容が明らかとなる。

 魚類相のデータに関してはそれぞれの海域での調査の徹底度が同一のレベルではない点に問題があり厳密な比較は出来ないことを考えておく必要がある。ここでは、特定の海域で長年のデータの蓄積があり、魚類分類の専門家が直接調査に携わってきたものを厳選して紹介したい。

  表1に、亜熱帯海域を代表する高知県、温帯の南限域に相当する長崎半島南西端に位置する野母崎町、日本海西部海域の山陰地方、太平洋北端の本県に隣接する岩手県、および北海道の4海域と本県における分布魚類の科数、種数並びに主要目の科、種数の比較を示した(塩垣,1988を改変)。本県に関しては生物地理区分にしたがって日本海に温帯の津軽海峡西部海域、太平洋に冷温帯の津軽海峡東部海域をそれぞれ含め、日本海・陸奥湾・太平洋の3海域に区分した。

表1 日本列島海域における主要目の分布科・種数,分子の数字は科数,分母のそれは種数.本県日本海は日本海沿岸から大間崎までの津軽海峡沿岸を含む.太平洋は大間崎以東から太平洋沿岸とした
海 域 名 高知県1) 長崎県2) 山陰地方3) 青 森 県4) 岩手県5) 北海道6)
野母崎町 日本海 陸奥湾 太平洋 全県 津軽海峡 北部日本海 北東太平洋 オホーツク海
総種類数 241/1276 147/433 177/528 138/392 97/214 155/423 202/654 167/505 105/347 78/265 85/248 52/143
目名
ネズミザメ目 11/28 5/6 7/14 11/16 3/5 11/22 12/26 8/13 4/6 5/6 5/6 2/3
エイ目 7/28 6/12 7/16 3/7 3/3 5/17 6/20 5/20 3/15 2/7 2/13 3/6
ウナギ目 8/54 7/15 5/10 3/7 3/4 8/12 9/16 8/15 5/8 1/1 2/5 0/0
サケ目 11/23 2/2 6/10 5/10 4/8 8/20 8/22 14/33 7/15 4/11 7/16 4/13
ハダカイワシ目 3/16 1/1 4/9 2/2 0/0 5/19 7/21 6/25 3/14 0/0 4/9 2/2
タラ目 3/37 3/4 4/7 2/4 3/5 4/16 5/18 4/14 3/14 1/3 3/11 3/6
スズキ目 87/619 67/230 71/214 63/177 39/94 56/138 69/233 51/140 33/90 30/82 23/44 13/18
カサゴ目 16/115 12/46 12/91 16/80 11/39 16/82 18/107 15/88 9/87 8/80 9/73 8/54
カレイ目 5/65 4/20 5/36 5/26 3/12 3/25 5/32 4/29 4/26 3/25 3/24 2/22
フグ目 9/76 6/27 8/25 8/26 5/15 5/18 8/29 6/26 5/11 3/11 4/6 3/3
1) Kamohara (1964), Yamakawa and Hiramatsu (1983), Yamakawa and Manabe (1984,1986) ; 2) 塩垣・道津 (1973) ; 3) 森 (1956) ; 4) 塩垣 (1982,1985) , 塩垣ほか (1992) ; 5) 丸山 (1971) ; 6) 上野 (1971) , 阿部ほか (1983).                                                 

  海域別の総科・種数では高知県で最も多く、北海道オホーツク海に面する海域で最も少なくなっているのが明らかである。本県日本海海域は山陰地方に比較してかなり温帯性魚類を欠いており北偏している距離感を実感できよう。太平洋海域は隣県の岩手県よりも若干少ないのはやはり黒潮由来の温帯性魚類を欠いていることと、深海魚の種数が少ないことに起因する。陸奥湾海域は本県の中で最も科・種数共に極端に少ない。これは深海魚成分を全く欠くことと、冬期の冷え込みが厳しく多くの温帯性魚類および太平洋由来の魚種を欠くことによる。その貧弱さは北海道オホーツク、同北東太平洋海域に次ぐものであり、特筆に値する(表1)。

  科・種数ともに、その海域での魚類の多様性を示す端的な指標であり、興味深いものがある。

  主要目別に見ると、それぞれの分類群で温帯起源と寒帯起源の双方を持っているものが多く単純に比較できないが、この中でウナギ目、スズキ目、フグ目は温帯起源の占める種が殆どである。これらに注目して見ればその海域の置かれた特徴が明瞭になろう。本県海域が陸奥湾を除いて、地理的に北偏してはいるが本州中部海域の魚類相に比較して科・種数ともに大きな遜色がないとはいえ、それでも温帯性魚類のかなりを欠いており温帯域の北限海域といえよう

  また、同様に、海域別に磯の定着性の高い常住魚の占める魚種が多い代表的な2科について見ると、このことは一層明瞭になる(表2)。熱帯起源のハゼ科、イソギンポ上科では暖流の影響力に比例して種数が変動している様子が明らかである。ハゼ科よりもイソギンポ上科でこの傾向はより明瞭である。これはイソギンポ科魚類の温帯適応種が少ないことによる。 


表2 日本列島主要海域における磯の定住魚を多く含む科・上科の分布種数.引用文献は表1と同じ.イソギンポ上科はヘビギンポ科・コケギンポ科・イソギンポ科の3科を含む
海 域 名 高知県1) 長崎県2) 山陰地方3) 青 森 県4) 岩手県5) 北海道6)
野母崎町 日本海 陸奥湾 太平洋 津軽海峡 北部日本海 北東太平洋 オホーツク海
ハゼ科 52 39 20 28 20 11 7 11 11 2 0
イソギンポ上科 24 13 4 6 3 1 2 1 0 0 0



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