畑園試だよりNo.3

時代にマッチした試験研究の推進
場長 吉原 雅彦
農業をとりまく情勢が大きく変化する中にあって、農業生産のあり方そのものが問われてきている。これまでの作物生産は良質(食味)・多収であれば良かったものが、最近では、安全・健康なものであることがより一層重要な条件になってきている。 このことは、これまで作物別に一定の耕種基準を設定し、その個々の技術を組立ててきた技術開発のあり方を、安全・健康を優先させる農業のあり方へと変更させざるをえないように思われる。それでは、このような時代の変化に対応した試験研究を進めるためにはどうすればよいのであろうか。そのためには、 ①既存分野での研究内容の濃縮 ②新しい農法への取組み強化 ③感性に富む研究員の養成、の3つがポイントではないかと考えている。 <既存分野での研究内容の濃縮> これまでは、予算化された研究課題を分析・検討し易くするために、予算課題を細分化し実施課題としてきたが、このような技術開発が研究全体の主流ではなくなりつつある。従って、このような細分化された実施課題については、統合されるのが当然なことであろうし、その場合の内容もできるだけ簡略化してアウトラインを把握する程度にしても対応できるのではないかと考えている。 <新しい農法への取組み強化> 安全・健康を優先させるような新しい農法への取組みは、従来の技術開発とは異なったものにならざるを得ないのではないかと考えている。作物別の耕種基準を設定するような緻密な分析手法には馴染まないものであり、有機栽培や減農薬・減化学肥料栽培に代表されるように、これら農法の特徴や問題点を明らかにし、そこで得られた成果を一定の基準に基づいてパターン化することが、当面、試験研究に課せられた役割ではないかと考えている。 〈感性に富む研究員の養成> 研究員にとって専門を持つことは大切なことではあるが、必ずしも従来のように狭い専門分野に固執し、その分野にのみ熟練した研究員を養成することではないように考えている。時代の動きや試験場のあるべき姿等を見通す中で、その中に自らの専門をどのように生かすべきかという感性を持った研究員を育成することがより大切になっているのではないかと考えている。 ![]() 今年5月に、突然、メーカーによるにんにくの萌芽抑制剤エルノー液剤の自主回収のニュースが飛び込んできました。にんにくの生育は春先から順調に推移し、大玉・良品質の収穫が期待されていた矢先であり、生産農家や農協など各方面に大きな衝撃を与えました。 にんにくは収穫・乾燥によって休眠にはいり芽や根が動きませんが、1ヶ月から1ヶ月半後には休眠から醒め、小屋などで保管した場合には11月頃になると、これら芽や根が伸びて商品性がなくなります。 エルノー液剤は、これを抑える唯一の薬剤であり、周年出荷のためには必要不可欠のものとして利用されてきました。これがなくなることによって、出荷計画の見直しや長期問にわたって出荷するための技術開発が緊急の課題になりました。 これらの情勢に対応するため、県では「青森県産にんにく緊急対策会議」を設置しました。この中に当場や農試等で構成される研究プロジェクトチーム(チーム長:農業研究推進センター所長)を作り、薬剤によらない萌芽抑制技術の開発試験に取り組んでおります。 これまで農家等で対応できる技術として、次のことが明らかとなり、既に農協や普及センター等を通じて指導が行われています。 1. 休眠から醒めたにんにくを、38℃で1週問処理し休眠状態に戻す方法で、約1ヶ月程度貯蔵期間を延長することができます。これは農家の乾燥施設を利用してできる方法です。 2. 休眠から醒めたことを確認するには、バットなどに水を浸したティッシュを敷き、にんにくを置き発根をみます。発根が5~6割みられた時点が休眠が覚醒した時期となります。 3. 農協等の冷蔵庫で長期貯蔵する場合には、8月中旬までの入庫し、-2℃の温度で冷蔵することが適当であることが明らかとなりました。 現在、この他に農協等で大量に処理することを前提に、リスクの少ない乾熱処理等の技術についても検討を進めており、早期に結果が得られるよう努力しているところです。 今後、これら技術の組合せによって周年出荷を可能とし、日本一のにんにく産地の維持・発展に寄与できるよう努力をしております。 ![]() 休眠の覚醒を確認するための発根テストの様子 栽培部 豊川 幸穂 ![]() 作物改良部では本県における重要な畑作物・野菜の優良品種の育成や種子・種苗生産の他、主要畑作物の栽培法の確立に向けた研究に取り組んでいます。この中で種子・種苗生産については小麦・大豆・小豆等主要農作物原種子の栽培、野菜優良種苗の増殖を行っており、これらの種子・種苗生産は業務全体の3割強を占めております。その概況は次のとおりです。 1.主要農作物等の原種子の増殖 小麦・大豆・そば等のそばの原種子を生産し、県農産物改良協会を通じて農協段階での採種用種子として供給し、県産畑作物の振興や域特産物の生産拡大を図ることを目的としております。 平成14年度の原種子の栽培面積
2.野菜優良種苗の増殖 にんにく・ながいも・いちごについて優良な形質を持ち、ウイルス病害等にも感染していない無病な種苗を供給することによって、野菜産地の育成・強化を図ることにしております。 平成14年度の生産状況
![]() スーパーで好評を博した「あおもり福丸」(横浜町産) 作物改良部 石谷 正博 ![]() 今年の8月は、記録的な長雨による不順天候が続き、各地の市町村・農協等で「不順天候対策会議」が招集されて、情報提供や技術指導がきめ細かになされました。 8月7日の豪雨に始まって、日平均気温が20℃にも充たない低温と、ほとんど日照のない日が約2週間続いたことは、農作物の生育に甚大な影響を及ぼしただけでなく、病害虫の発生も懸念されました。不順天候によって問題になる典型的な場合がイネいもち病です。 平成5年の大冷害はまだ記憶に新しいところですが、当時の記録(南部地域病害虫防除所年報)から、不順天候といもち病との関係を考えてみます。県南地域の発生面積を、平年と比較した結果を表に表しています。 平成5年県南地域のいもち病発生面積(ha)
表を見てすぐわかることは、葉いもちの発生は平年よりかなり少なかったのに対し、種いもちの発生が非常に多くなったのが特徴です。この点について次のような解説をしています。 『葉いもち:初発時期は平年並みであったが、その後の発生は低温のためにかなり遅れ、三戸地区でややまとまって発生したのを除き、極めて少ない発生量となった。』 『穂いもち:出穂時期になり、いもち病菌の侵入に好適な気象条件が多く出現し、また出穂が長期にわたったことから稲体がいもち病に弱い状態が続いた。冷害が決定的になり、農家の防除意識が低下した。』 このように、今年の8月の場合も冷涼多湿な気象条件であったわけで、このような状況下ではいもち病菌が活動するために好適であり、また日照不足は稲体の抵抗力を低下させるということになりました。加えでこのような気象条件の下では薬剤散布ができない等という多くの要因が重なり、結果としていもち病が大発生することになったと考えられています。 ![]() 病害虫防除室 桑田 博隆 ![]()
![]() ![]() ![]() エルノー販売中止問題、夏場の不順天候などを取り上げました。生産者の方々はもとより関係機関にとっても問題の多い年になっておりますが、今後、生産物の品質や販売価格などの面で明るい話題が多くなることを期待したいと思います。 |