畑園試だよりNo.4

新春に寄せて
場長 吉原 雅彦
穏やかに新しい年を迎え、今年こそは農家並びに農業にとって、よい年であってくれるよう願っている次第であります。さて、昨年を振り返りますと、にんにくの萌芽抑制剤の販売中止の影響や、無登録農薬の使用問題と1年間を通して農薬の使用のあり方が問われてきました。これら一連の動きは、農政がこれまでの農家中心から消費者を含めた国民全体へとその軸足を移すことに伴い、その間隙を付いて生じた出来事ではなかったのかと考えております。このように、現在、私達は時代の大きな変り目に立っている所であり、これらの変化の過程で弱点や盲点をさらすことにならないようにすることが大切ではないかと考えております。特に試験研究としては、①新しいテーマヘの挑戦②既存研究分野の縮少③優れた研究員の養成に力を入れることが、今年の課題ではなかろうかと考えております。 <新しいテーマヘの挑戦> 現在のような社会情勢の下では、短期的な視点から現状打破を図るには限界があります。従って、中・長期的な視点をも大切にすることが大変に重要であります。幸いなことに、14年度から「冬の農業の技術開発」のために新しい研究を開始しており、その中では、例えば真冬にトマトを収穫するような新しい研究施設等が整備されており、既存の施設と並行して実用試験を進めていくことにしております。また、社会的な要請も強く、新しい研究分野でもある環境負荷の軽減や安全・安心な作物生産にも、野菜を中心とした試験場としての役割を自覚し、全場的に知恵を絞って果敢に取組むことが肝要になっております。 <既存研究分野の縮少> 社会状況が変化する中にあって、新たに要請される試験研究のテーマについても、これ迄になく新しい対応が要請されることになります。従って、既存研究として引き継いてきている作物(品目)別の細かい技術開発等については、その重要性が低下してきているように考えております。この種の研究分野・内容については大胆な見直し・簡略化を図りながら、ポイントを押さえた研究を進めるべきではないかと考えております。 <優れた研究員の養成> 研究員にとって自ら得意とする専門を持つということが大切なことは言う迄もありませんが、これら特定の専門分野だけで課題解決できる余地は次第に少なくなっているように思われます。従って、特定の専門を持つ研究員であると同時に、社会情勢の変化やそこから生じる社会的な要請にも関心を抱き、新しく生じた難しい研究テーマにも果敢に取組むことが重要になっております。また、他分野の研究員と力を合わせて課題解決に当たることもより肝要なことであります。 ![]() 本格的な冬を迎え、県の重点施策「冬の農業」の一環として取り組む「自然エネルギーを活用した冬の農業確立のための技術開発」試験が、動き始めました。 本試験では、県南の冬場の多日照条件を活かし、太陽光エネルギーを利用した硬質フィルムハウス(約100坪)を新設することになっています。このハウスは、太陽光発電装置(発電量20kW)で発電した電力でヒートパイプ加温装置を動かし加温する仕組みになっています。工事は、ハウスが1O月、太陽光発電装置・ヒートパイプ加温装置が11月から始まり、1月の完成に向けて進められています。完成後は、発電量・ハウス内の温度の動き・効率的な加温や保温方法を明らかにするとともに、野菜の栽培試験も実施していくことにしており、これに向けた育苗を現在進めています。 しかし、このような施設の普及には相当長い年月が必要です。このため、導入しやすいパイプハウスでの試験も併行して実施しています。このため、保温用カーテンや温風暖房機などを装備したパイプハウスを使い、栽培試験を進めています。品目は、トマト・こまつな・こねぎ・こかぶ・だいこんの5種類です。トマトは、9月18日に播種・11月12日に定植し、1月下旬からの収穫を予定しています。他の作目は、3月までに2回以上収穫するための作期の開発をめざし、11月からは種を始めています。 また、冬春どりの果菜類として重要な品目である半促成栽培のいちごで芽枯れ症状の発生が問題となっていることから、この対策として、被害を受けにくい品種の選定や、耕種的な面からの回避技術の試験も開始しています。 これら試験を通じて、冬場に新鮮でおいしい野菜を提供するための情報拠点になれるよう努力しております。 ![]() 工事中の硬質フィルムハウス 栽培部 豊川 幸穂 ![]() 県産ながいもは形状・品質とも日本一の評価を得ていますが、さらに優良な形質をもった新系統ながいもの育成をめざして、試験に取組んでいます。 現在、野菜優良種苗供給事業を通してながいものウイルスフリー株の供給を行っている訳ですが、この母本となっている「園試系6」は組織培養から生じた変異株の中から収量性が高く、弔いもの発生の少ないものを選抜した結果、誕生した系統です。 組織培養の他、放射線照射により変異株を生じさせ、形が良く、いもの肥大性が優れたものの選抜に努めています。平成4年に照射を行い、選抜を繰り返してきた結果、平成12年に親株に比べ収量性が高い2系統、及び明らかにいも長が短い3系統を得ることができました。これらは、それぞれ園試系の系統名が付されて、現在、特性・生産力検定試験が進められています。いずれも、形状及び収量性については系統独自の特徴があると判断されました(写真)。ながいもの生産農家は消費者二一ズに応えるべく、民間で開発された優良品種を含め、いろいろな優良系のながいもを選択して、日本一のながいもを守ろうと懸命に生産に取り組んでいるところです。近い将来、当場が育成した新品種が生産者はもちろんのこと、消費者からも高い評価を得て、日本一のながいも産地の維持に貢献できればと願いながら、新品種の育成に取り組んでいるところであります。 ![]() 作物改良部 石谷 正博 ![]() 近年、水稲の葉いもちや本田の初期害虫の場合には、移植3日前~当日迄に薬剤を育苗箱に施用し、高い防除効果が発揮されています。また一部の薬剤では、播種と同時に施用することによって作業幅が拡大されて、一層の省力化が実現されています。 野菜の病害虫防除の場合にも、類似の技術が開発され効果を発揮しているので、その概要を紹介します。 ◎キャベツのコナガ 対象作物:セルトレー育苗のキャベツ苗 対象薬剤:オンダイアエース粒剤 処理量:キャベツ首1株当たり1g 処理時期:定植2日前~定植当日 処理方法:株元散布 小面積の育苗セルトレーに、所定の薬剤を散布してから移植するだけの簡単な方法ですが、効果は従前の技術と同等であることが確かめられています。 これの対照となる処理技術は、類似の粒剤を事前に植穴に所定量を混和して、その後苗を移植するもので、10g当たり3,000~5,500株を移植するキャベツでは莫大な労力を要することになるのは想像に難くありません。これに対して、この技術がいかに省力的がは容易に理解することができます。 ◎ハクサイ根ごぶ病 ランマンフロアブルの500倍液を、定植前日~定植当日に育苗セルトレー1枚当たり2リットル潅注するもので、すでに登録がなされており、「県防除基準」には近い将来に採用される見込み出す。またキャベツ根ごぶ病に関しても、農業試験場などで登録に向けた試験を実施しており、高い評価が下されています。 野菜ではありませんが、フラワーセンター21あおもりでは、カーネーション茎腐病の防除に同様の技術が試験され、優れた成果が得られています。 このような省力防除技術の開発は、環境保全型防除技術の開発と同様に、今後の発展が大いに期待される病害虫防除の重要な分野と考えております。 ![]() 病害虫防除室 桑田 博隆 ![]()
![]() 1.高速液体クロマトグラフ 野菜に含まれる糖類・ビタミン類・ポリフェノールなど、栄養・機能性成分量を測定する装置です。特に、冬場にこれらの成分を多く含む野菜の生産に役立てるため導入しました。 ![]() 2.光合成蒸散測定装置 野菜等の光合成量や葉からの水分の蒸散量を測定する装置です。携帯用でハウスなどの畑で利用できることから、種々の温度・日照条件や資材の被覆条件下においてこれらを測定し、収量・品質の確保に役立てます。 ![]() 3.群落葉面積計 野菜等の葉面積や繁茂状態を測定する装置です。この装置も携帯用であり、畑で生育の状態を把握して、適正な栽植密度や整枝法等の解析に利用します。 ![]() 栽培部 豊川 幸穂 ![]() 本号は平成14年度の最後の発行となります。畑作園芸試験場の動きやトピックスなどを中心にお知らせしてきました。来年度は、時々の話題をわかりやすく提供するよう一層努力していきますので、よろしくお願いします。 |