青森県でしか知られていない魚類

青森県でしか知られていない魚類

 本県産標本を基に記載された魚類はコラムに示したように、16種に上る。
 ここでは、記載後いまだに本県以外でその分布が確認されていないものについてのみ挙げて見る。もちろん、調査研究が進んでいなくて分布域が拡大していないことにもよるがそれなりの意義がある。また、未だに記載されていないが、その存在が知られているものについても簡単に紹介しておく。


キタノウミヘビ Muraenichthys borealis Machida and Shiogaki, 1990
  ウナギ目ウミヘビ科ミミズアナゴ属

 全長30cm前後の小型のウミヘビである。本科魚類は本県ではダイナンウミヘビとともに2種しか知られていない。ホタテ桁網やビームトロールで稀に採集され、茂浦では夏の夜、岸壁の照明に表面を泳いでいる所を採集したこともある。川内では漁協組合員が桁曳で地蒔貝を漁獲した際混獲され、小生の目に留まり標本を持ち帰った所、後日、「あれは竜神様だから返してくれ」と言われて困ったことを思い出す。本種は高知大学の町田氏とともに小生が記載した。種名は北方の意で、ウミヘビの分布からは例外的な北方海域から知られたことによる。採集地は岩崎、平舘、茂浦、川内、牛滝、野牛である。


オニイワシ Leptochilichthys microlepis Machida and Shiogaki, 1988
  サケ目オニイワシ科オニイワシ属

  小生が水産試験場に在職していた昭和55年5月18日、調査船初代開運丸による太平洋沖合水深700m台でオッタートロールによる深海漁場開発の為の資源調査を行なった際、漁獲された1個体の標本(体長303mm)を基に高知大学町田氏とともに記載したものである。
  当時、山と漁獲されたものを上甲板から中甲板に流し込み、そこで市場価値のあるもののみを選別し、その他はベルトコンベヤーで海上投棄していた。小生は調査員として乗り込み、2週間単位の航海を交替でやったものである。調査員は資源調査であるので、市場価値の有無に拘らず漁獲物全ての種別の尾数・重量を把握する必要があり、ベルトコンベヤーのそばにつききりで流されていく魚と格闘してチェックしたものである。その中からやっとの思いで掴み出したものの1つがこの標本であった。
 本科魚類は本邦初記録であり、新称オニイワシ科とした記念すべきものである。種名は細かい鱗の意である。大きく裂けた口と鋭い目が異様な雰囲気を持っておりオニイワシと名づけたものである。


ワカタカユメソコグツ Coelophrys bradburyae Endo and Shinohara, 1999
  アンコウ目アカグツ科ワカタカユメソコグツ属

  東北区水産研究所所属調査船若鷹丸による太平洋海域のオッタートロールによる資源調査で八戸沖水深557-595mで採集されたアカグツ科の小魚(体長43.2mm)である。我々の資源調査ではこのような小型魚類は網から抜け出ること、また、漁獲物をていねいに調べる余裕がないことから見逃していたものであろう。生鮮時の体色はピンクという。種名は若鷹丸とアカグツ科魚類の専門家であるMargaret G. Bradburyにちなむ。1個体の標本しか知られていない。


アワユキセジロハゼ Clariger chinomaculat  us Shiogaki, 1988
  スズキ目ハゼ亜目ハゼ科セジロハゼ属

第1背鰭が3棘からなるセジロハゼ属の小魚で、本県では同属には日本海から津軽海峡西部沿岸でセジロハゼ、ヒゲセジロハゼが知られている。本種は昭和60年の夏、勤務先の増殖センターがある平内町茂浦海岸で昼休みを利用して素潜りで採集をしていた際、水深1-2mの転石の下から採集されたものでセジロハゼよりも大形で全長5cmに達する。背面に目立った白色班が鞍状に散在しており、採集した時点で未記載種であることが分かり、死に物狂いで採集したものである。昭和60年8月20日と、翌年8月11日に合計32個体の標本を得て、背面の淡色班を春の消え残った淡雪に見立てて種名としたものである。本種はその後、仏ケ浦沖水深8mで採集された他未だに他海域からの採集報告はない。

 

 


カワリミミズハゼ Luciogobius adapel Okiyama,2001
   スズキ目ハゼ亜目ハゼ科ミミズハゼ属

  今別沖水深20mの砂礫底から得られた小型のミミズハゼ類である。海底電線敷設のための事前調査で採泥器による底質調査でサンプリングした砂礫中から発見された。
 このハゼは、背鰭、臀鰭、腹鰭が全く消失しており、胸鰭と尾鰭のみという。魚類の中で胸鰭、腹鰭の退化消失したものはあるが、背鰭・臀鰭のないものは寡聞にして知らない。そのくらい驚異的な形態をしているが、骨格その他の形質からミミズハゼ属魚類から導かれたものと考えられ、「究極のミミズハゼ」とでもいえる貴重な発見である(Okiyama, 2001)。


ムツムシャギンポ Alectrias mutsuensis Sh  iogaki, 1985
  スズキ目タウエガジ科ムシャギンポ属

  本種は陸奥湾の20m以深の沖合の泥底から 知られているのみである。本県沿岸からは同属にムシャギンポと後述するヒナムシャギンポの計3種が知られている。これらは潮間帯から水深5m以浅の浅海に棲息するのに対して本種は沖合に分布するものである。
 本種は増殖センターに在職時に、湾内のあちこちで養殖ホタテガイの調査、桁網調査等で引き揚げた籠の中から這い出したものをピンセット片手に採集し持ち帰ったものの中から発見したものである。当時は養殖技術がまだお粗末で垂下していた籠が底付きとなって長く放っておかれたものが結構あったものである。その籠の中のホタテの死殻の中に入っていたものが籠とともに引き揚げられて這い出して来たものである。当初はただのムシャギンポとしか見ていなかったのであるが、昭和55年、鰺ケ沢の水産試験場に転勤となり日本海沿岸で初めて本物のムシャギンポを採集して陸奥湾のものが違うことに気付いたものである。本種は体色が赤褐色をしており、体高が低いこと等の特徴があり、陸奥湾にちなんだ種名とした。本種は未だに陸奥湾外からの報告はない。

 

 


ヒナムシャギンポ(仮称) Alectrias sp.
  スズキ目タウエガジ科ムシャギンポ属

本種はムシャギンポ属魚類の中では最も体高が低く細長い。背鰭・臀鰭条数、脊椎骨数も最も多い。頭部感覚管の前鰓蓋管と後頭管の開口数がそれぞれ4、3であり、他種ではそれぞれ6-7、5である点で特異である。全長5cm程度の小魚である。
本種の標本は横磯、赤石、龍飛、茂浦海岸で得た。潮下帯の浅所に棲息している。浮遊生活期の仔稚魚は白糠のコウナゴ棒受網、同漁港内での集魚灯採集で得られており、全県沿岸に棲息するものと考えられる。しかし、これまでの成魚の採集例は極端に少ない。

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