青森県産魚類研究の黎明

青森県産魚類研究の黎明

米人ジョルダンの活躍

  日本産魚類が西欧世界に初めて紹介されたのは幕末に長崎で活躍したシーボルトによりオランダに持ち帰られた標本をもとにそれぞれの専門家による記載がなされたかの有名なファウナ・ヤポニカの脊椎動物門魚類篇であろう(Temminck and Schlegel著。15分冊、1842-1850年刊)。しかし、この中では北偏の地であった本県産魚類に関しては全く取り扱われていない。
 県産魚類を初めて世界に紹介したのは米国スタンフォード大学総長であったジョルダン博士並びにその一門の魚類学者であったことは塩垣(1992)に詳しい。ここでは、彼の本 県における魚類研究の足跡を簡単に紹介する。
  彼は米国産魚類研究の集大成である北米・中米の魚類(Jordan and Evermann, 1896-1900)を完成した後、極東の魚類に強い関心を 持ち、韓国、日本産魚類の研究に着手したのが1900年(明治33年)のことである。彼はまた、当時外人教師を盛んに招聘していた東京帝国大学動物学教授の3代目に座ることを強く希望していたのもこのことと関係がないとは言えまい。
県産魚類の採集調査の経緯は以下の通りである。


  1.ジョルダン博士は助教授スナイダー博士を伴い1900年初来日し、本県では8月8-9 日まで青森市周辺での採集調査及び魚市場調査を行っている。陸奥湾では漁船を仕立てて底曳網調査を行い、沖館川での淡水魚採集も行っている。その際、青森県庁物産陳列場内に開場していた県水産試験場の所蔵標本を縦覧し、必要なものを持ち帰っている。
多くの種の新種記載を行なっているが、この中で現在でも有効な種はアキギンポ、トクビレの2種である。
2.1911年、国際平和基金の援助で単独でジョルダン博士が来日した際には、横浜市在住の魚類標本収集家のAlan Owston氏が国内 各地で収集した標本の中に、本県産コンニャクイワシ、ハツメの2種を発見し、いずれも新種として記載している。
3.1922年の来日の際には、東京帝国大学農学部所蔵標本の縦覧を行い、この中で本県八戸地方産淡水魚7種を持ち帰っている。
1911,1922年の両年の成果はカーネギー財 団博物館紀要で出版しており、素晴らしい図からなっている。
4.1906年の米国水産局所属蒸気調査船アルバトロス号による日本周辺海域魚類調査では本県関係では鮫海岸を中心とした磯魚採集でムツカジカが新種記載されている。また、沖合のドレッジ採集では北海道木古内沖、海峡西口の松前海釜の2点で採集調査が行われており、木古内沖ではホホウロコカジカが新種記載されている。
これらの研究報告では本県産魚類は50科115種の記載に及んでいる。この内、その時点では17種が新種記載されているが、現在では多くのものが異名同種(シノニム)となって消えており、有効種は8種となっている(末尾のリストの1-8)。
以上の米国魚類学者による研究の後では、県産魚類の主要な研究としては以下のものがある。
 池田(1936),和田(1939),佐藤(1950),中村(1958),三河(1966,1970),内田他(1970, 1971),紺野他(1972,1973,1975),小川・早 川(1975),塩垣(1982,1985,1988), 野村 ・塩垣(1988,1992),塩垣・野村・杉本(1992)。


 今日までの、本県産標本に基づき新種記載された魚類には以下の16種がある。記載された年代順に、種名、命名者名、発表年、産地、(科名)をそれぞれ示す。

1.トクビレ Jordan and Snyder, 1901 青森湾(トクビレ科)

2.アキギンポ Jordan and Snyder, 1902 青森湾(タウエガジ科)
3.ココノホシギンザメ Garman, 1908 津軽海峡(ギンザメ科)

4.ムツカジカ Snyder, 1911, 1912 鮫海岸(カジカ科)

5.カンテンビクニン Gilbert and Burke,1912  津軽海峡西口沖(クサウオ科)
6.コンニャクイワシ Jordan and Thompson, 1914 青森(セキトリイワシ科)
7.ハツメ Jordan and Thompson, 1914 青森(フサカサゴ科)
8.ホホウロコカジカ Bolin, 1936 津軽海峡西口(カジカ科)
9.ツムラカスベ Ishiyama and Ishihara,1977 八戸沖(ガンギエイ科)
10.ムツムシャギンポ Shiogaki, 1985 陸奥湾(タウエガジ科)

11.コグチヘビゲンゲToyoshima, 1985 太平洋深海(ゲンゲ科)
12. アワユキセジロハゼShiogaki, 1986 平内町茂浦海岸(ハゼ科)

13. シマシロクラハゼ  Akihito and Meguro, 1988 龍飛海岸(ハゼ科)

14. オニイワシMachida and Shiogaki,1988 太平洋深海(オニイワシ科)

15.キタノウミヘビMachida and Shiogaki,1990 岩崎、平舘、茂浦、川内、野牛(ウミヘビ科)
16. ワカタカユメソコグツ Endo and Shinohara, 1999 八戸沖(アカグツ科)

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