青森農研フラッシュ 第14号

青森農研フラッシュ 第14号(平成18年8月)

◇掲載内容◇

 ○森林昆虫の多様性調査   農林総研 林業試験場 森林環境部

 ○DNAマーカー選抜を利用して「ゆめあかり」「まっしぐら」の耐冷性を強化する 農林総研 藤坂稲作研究部

 ○オウトウのブランド品種の育成に向けて   農林総研 りんご試験場 県南果樹研究センター 

 ○点滴かん水同時施肥システムによる花き栽培  農林総研 フラワーセンター21あおもり 生産技術部

 ○おいしい鶏卵を目指して -卵黄割合が極めて高い鶏卵の開発-  農林総研 畜産試験場 養鶏部

 ○モチ性小麦の用途開発のための意見交換会を開催   農林総研 畑作園芸試験場 作物改良部

 

 

森林昆虫の多様性調査

農林総合研究センター 林業試験場 森林環境部
 

  森林には多様な生態系の保持機能や、水土保全機能などがあることから、それらの機能を発揮しながら持続的に木材生産を行う手法への転換が求められています。そこで、持続的に森林を管理し、これらの機能を十分発揮させるためには、森林が望ましい姿になっていることを知るための「ものさし」が必要です。
  林業試験場では、野生生物により森林生態系の健全性や持続性について把握・評価するモニタリング手法を策定するための調査を行っており、昆虫については、マレーズトラップ(写真)やサンケイ化学社製の各種衝突板式トラップを使用し、甲虫類の捕獲調査を行っています。
  その結果、マレーズトラップは多くの科の甲虫を捕獲でき、甲虫類全般の調査に適していると考えられました。一方、衝突板式トラップはトラップの機種により捕獲される甲虫に特徴が見られ、特定の指標種や甲虫の科を定めて調査する場合には、利点があると考えられました。また、カミキリムシ科のハナカミキリ亜科やカミキリムシ亜科トラカミキリ族は、林相を表徴するグループと考えられます。
  モニタリング手法を策定するためには、指標種・指標グループの選定や、その林分の昆虫相を把握する最小調査面積、効率的トラップの設置基数(個数)等についても調査し決定する必要があるなど、解決すべき課題が残っており、今後、これらの課題にも取組んでいきたいと思います。

                                                

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DNAマーカー選抜を利用して「ゆめあかり」「まっしぐら」の耐冷性を強化する!

農林総合研究センター 藤坂稲作研究部

  青森県、とくにヤマセ常襲地帯である県南・下北地域の稲作において、耐冷性はなくてはならない特性のひとつです。本県の奨励品種である「ゆめあかり」、「まっしぐら」の耐冷性はそれぞれ「強」、「やや強」ですが、低温年でも安定して栽培するためにはさらなる強化が必要です。
  これまで、北海道農業研究センターや藤坂稲作研究部で行った、DNAマーカー(遺伝子の目印)を利用した研究で、耐冷性の強い外国イネが持つ耐冷性遺伝子が染色体上のどこに位置するかが明らかになっています(図1)。通常、耐冷性の選抜は、屋外で年に1回耐冷性検定を行い、強いものを選び出す、ということを繰り返して行いますが、DNAマーカーを利用した選抜では、室内の実験で年に数回、耐冷性遺伝子の保有を確認することができるため、短期間で効率的に耐冷性の強化を図ることができます。
  本試験では、ネパール、インドネシア、マレーシアのイネがそれぞれ持つ耐冷性遺伝子(図1)を「ゆめあかり」、「まっしぐら」へ導入しようと試みています。図2のように、DNAマーカーによる遺伝子有無の調査、戻し交配という作業を繰り返すことにより、耐冷性以外の草姿、品質、食味等の特性は「ゆめあかり」、「まっしぐら」と同一で、耐冷性を「極強」~「極強以上」に強化した「ゆめあかり」、「まっしぐら」の作出を目指しています。
  平成17年より育成を開始した系統は、早ければ平成21年にあおもり米優良品種選定試験に供試できる見込みです。


 

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オウトウのブランド品種の育成に向けて

農林総合研究センターりんご試験場 県南果樹研究センター

  現在、国内でのオウトウの主力品種は「佐藤錦」で、本県でも栽培面積の半分を占めています。「佐藤錦」は良食味ですが、元々果実の大きさが中位であり、収穫期後半にはウルミ果(果肉が水浸状になる障害)が発生し、商品価値が低下するなどの問題があります。 このため、「佐藤錦」並みの良食味を保ちながら、大玉で日持ちの良い本県独自のブランド品種を育成するため、平成9年度より育種研究に取り組んでいます。
  現在の主な育種目標は、① 1果重10g以上で「南陽」、「サミット」並みの大きさ、②高品質で「佐藤錦」並みの良食味、③ 果肉が硬く、日持ちが良く輸送性があること、④ 自家和合性で受粉樹を必要としないこと等です。
  平成9年度より延べ約120組み合わせの交配を行い、これまでに約1200個体の実生を育成しています。平成17年までに約500個体について果実品質、食味を中心に調査し、5系統を優良系統として選抜しました。そのうち、4系統については県内の生産現場で地域適応性を検討しています。これらの系統は「佐藤錦」より早く収穫できるものや、遅いものであり、いずれも「佐藤錦」と受粉和合性があると推測されます。データーの蓄積がある3系統の特性は表のとおりで、全般に10gに近い大玉で、良食味系統です。今後は栽培特性等を把握しながら2次選抜を進め、品種登録への絞り込みを図る予定で、本県独自のブランド品種となることが期待されます。




 

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点滴かん水同時施肥システムによる花き栽培 

農林総合研究センターフラワーセンター21あおもり 生産技術部

  点滴かん水同時施肥システムは、養液土耕とも呼ばれ、点滴かん水チューブを利用して水と液肥を同時に、作物の生育に必要な量だけを少量ずつ施用する栽培システムです。このシステムの特徴は、1日ごとのきめ細かな施肥とかん水管理が自動化されるため、安定的な養分供給による品質向上や花き施設栽培で大きな問題となる塩類集積の回避を期待できることにあります。
  本システムを用いてカーネーションを栽培試験したところ、慣行施肥栽培と比較して良品率を30%程度向上させ、かつ採花後の土壌中に残存する無機態窒素量を半分程度の4mg/100g以下の低濃度に抑えることができました。また、キクの栽培試験でも、慣行施肥と同程度の品質を確保し、カーネーション同様に土壌中に残存する無機態窒素量を4mg/100g以下の低濃度に抑えることを可能としました。
  本システムは、点滴チューブ、液肥用タンク、液肥混合機とかん水及び液肥をコントロールする制御盤が必要です。価格はメーカーや機種によって違いがありますが50万~100万円程度、システムの利用可能面積は20~100a程度となります。現在は更に安価なシステムの開発が進められています。生産現場では、今回の試験で確認できた施肥管理への利用と併せて、かん水作業を自動化するメリットを生かした栽培規模拡大への活用が期待できます。



 

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おいしい鶏卵を目指して

-卵黄割合が極めて高い鶏卵の開発- 

農林総合研究センター畜産試験場 養鶏部

 卵のおいしさの主体は卵黄にあります。なぜなら、うま味に影響するアスパラギン酸やグルタミン酸などの遊離アミノ酸濃度は卵白の場合、卵黄の10分の1以下であり、味覚として感じる最低値(閾値)以下になるからです(坂井田、1999年)。特に、日本人が好きな「玉子ご飯」や「すき焼き」などに使う場合や「ゆで卵」にする場合、卵黄が多いほどおいしくなり、卵白が多いほどおいしさが薄まります。このため、わが国では卵黄の割合の高い卵が好まれます。
  最近の卵用鶏は、成熟時の卵重が65g前後、卵黄、卵白及び卵殻の重さがそれぞれ約17g、約41g及び約7gで、卵黄割合(卵黄÷卵重×100)は約27%です。半世紀ぐらい前の鶏の卵に比べ、卵重は約10gも増加していますが、卵黄の重さはほとんど変わらず、卵白が約10g増えており、卵黄割合は3%以上低下しています。
  特に問題となるのは、日本人が好む生食やゆで卵用の卵で、鶏卵規格取引の格付けで56g前後のMS規格卵が適しますが、この規格の卵黄割合は現在では22%前後まで低下しています。その理由は、最近の鶏ではMS規格の卵を採るには卵黄が小さい若い鶏から採らざるを得ないためです。
  そこで、畜産試験場では、成熟した鶏でMS規格の卵を産み、卵黄割合が昔の鶏を超える33%に達する実用鶏の開発に取り組んでいます。33%という目標値は、卵が非常においしいとされるホロホロ鳥や特殊な愛玩鶏で見られる値です。これらの家禽は春の繁殖時期しか卵を産みませんが、年中ほぼ毎日産卵する実用鶏で33%の卵黄割合を実現させることとしました。
  目標達成のため、昭和59年から卵黄が重い鶏の選抜を行い、卵の重さが64g、卵黄の重さが19g、卵黄の割合が30%の原種を造成しています。また、平成12年に帯広畜産大学から卵白に対する卵黄の割合が高い選抜鶏を導入しています。本県では導入後、さらに独自に卵黄の重さの選抜を行い、卵黄の割合が34%に達する原種を造成しています。なお、帯広畜産大学の選抜鶏は本県へ移譲直後、繁殖を止めており、その血を引く鶏は本県以外に存在しません。これら原種の交配検定を実施したところ、卵黄割合が32%と高い「あすなろ卵鶏」の新鶏種を開発しました。新鶏種は死亡率が5%以下、産卵率が80%と強健多産の特長をもち、さらに成熟時の卵重及び卵黄の重さがそれぞれ57g及び18.5gで、生食やゆで卵に適したMS規格の卵を産みます。
  新鶏種は、最近激化している産地間競争に対応できる品質面の優位性を持っています。このため、「攻めの農林水産業」における地域特産鶏として大いに利用して頂きたいものです。


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モチ性小麦の用途開発のための意見交換会を開催 

農林総合研究センター畑作園芸試験場 作物改良部

 東北農業研究センターが世界で初めて育成したモチ性小麦は、従来の小麦加工品とは異なる食感を活かした地域特産品の開発が期待されている小麦です。しかし、モチ性小麦粉は用途・製品への適応性が不明確であるため普及には至っていないことから、当場では平成16年から食品製造業者に依頼し、モチ性小麦「東北糯217号」の用途開発について検討を重ねてきました。去る6月20日に、試作に応じて頂いた食品製造業者をはじめ、育成者の東北農業研究センター、県立保健大学、産業振興コーディネート機関、県の各関係者が参加し、「モチ性小麦の用途開発に係る意見交換会」を開催しました。
 意見交換に先立ち、東北農業研究センターの谷口義則パン用小麦研究東北サブチーム長から「これまでのモチ性小麦の育成経過と現況」と題してモチ性小麦の説明をして頂きました。この中で現在育成中の「東北糯217号」は、開発当初の品種に比べて、栽培特性、製粉性が大幅に改善されており、品種登録を進める意向であることが紹介されました。引き続き、当場から青森県における栽培試験結果等の説明後、持ち寄った試作品を試食しました。
 試食には、南部煎餅、パン、うどん、すいとん、オレンジケーキ、もち菓子(新粉餅)、お好み焼き、ブランデーケーキとバラエティーに富んだ盛りだくさんの食材が出されました。
 試食後の意見交換では、「今すぐにでも商品化したい」、「つくりづらい」などと業者によって様々な意見が出されましたが、材料が確保できないと商品化が進められないので、原料供給体制の整備が必要という点では一致していました。また、製粉も含めた生産コストの面から原料の安定供給に課題が残っているとの指摘もありました。
 本意見交換会で製造業者からの「使える見通しがある」との声を受けて、当場では、残された課題をクリアしつつ、モチ性小麦の普及に向けて今後も取り組んでいくこととしています。

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